第6章
君がために
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浅葱の出て行く気配を確認してから、寛也は布団の中にあった杳の手をそっと取り出した。それを、両の手で柔らかく包み込む。
自分の握った手のひらから杳の手のひらへと、じんわりと竜の力が流れ出すのを感じる。
「杳…」
名を呟いて、白い指先に口づける。
ひんやりとした指の感触が伝わってくる。この手に触れたのはつい一昨日のことだったのに、もうこんなにも衰弱していたなんて。痛々しいまでのその様子に胸が痛む。
これ以上、何も望まないのに。ただ、杳が無事でいてくれたら、元気でいてくれたら、それだけで良いのに。
愛しい存在――何物にも替え難かった。
浅く呼吸を繰り返す唇も、いつもは奇麗な紅色をしているが、今は色を失ったかのように、青く白かった。
助けたい。その一心だけで、寛也は杳に力を送り続ける。寛也の赤く輝く竜気が、杳の手のひらから吸い込まれるように流れこんでいくのを感じる。
まだ、受け入れてくれているのだ。
「杳…絶対、守ってやるからな…」
囁いて、そっと口づけた。
冷たい唇の感触が伝わる。寛也は触れるだけですぐに唇を離した。
と、うっすらと、杳の瞼が開かれていった。
「ヒロ…」
虚ろに向けられる瞳を覗き込む。
「大丈夫だ。すぐに楽にしてやるからな」
寛也は、杳の手をしっかり握り締める。
「明日の朝になったら、また起きられる。飯食って、少し身体でも動かせば、すぐに元気になる。絶対に」
本気でそう思っている寛也に、杳は切ない色の瞳を向ける。ひどく頼りなさそうに見えて、ゾクリとした思考が寛也の脳裏をかすめる。が、慌ててそれを振り払う。
「お前が俺のこと、もう好きじゃなくても、他の誰のことを思っていても構わないから。俺がお前のこと、好きなことには変わりないんだ、杳。だから…」
そう言って、もう一度重ねる唇。杳の身体に触らないようにと、柔らかく重ねては、すぐに離れていく。
そんな寛也の首に、杳の腕か伸びてきた。
「…杳?」
引き寄せられる。寛也はされるままに、頬を寄せる。