第6章
君がために
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「後方の守りなんて、もともと僕の得意とするところじゃない。やりたいなら君に譲るよ。代わりに僕は戦うから。何があっても、最期まで戦うよ…」
それは自分に言い聞かせるためのもののように聞こえた。本当に守りたい者を失うことが見えていても、決して敵に背を向けることはしない。そんな決意のように。
「それから、翔くん。歌竜の件、明日までには何とかするから、もう少し時間をもらいたい」
そう言って潤也は、翔とも目を合わせないままに広間を後にした。
「…何だ、あれ」
理解できない潤也の言動に、眉をしかめて最初に口を開いたのは露だった。
潤也のことは前回の二年前の件からも余り良い印象を持っていなかったため、口調は否定的だった。
そのことに気づいて、翔が口添えをする。
「気を悪くしないで。僕が、何もかも面倒なことを全部押し付けてしまったから、きっと面白くないんだと思う…」
「今更だろう」
吐き出すようにそう言ったのは聖輝。
太古の昔から、天地竜王達が勝手気ままに振る舞っていた中で、年下の者達の面倒を全て受け持っていたのは風竜である凪だった。まだ幼かった歌竜や炎竜、それに綺羅を育てたのは彼だと言っていい。それがどれだけ大変だったことか。だから、今更竜王達の我が儘が気に入らないからと言って、腹を立てることもないだろうと言うのだった。
「凪は僕のことを怒っているんだよ」
理由は他にあるだろうと言外に語る聖輝の後を継いで、ポツリと紗和が言った。
「誰にも相談もせずに突っ走ってしまったから、そのことを責めているんだと思う」
「でもそれは仕方なく…」
翔が弁解してくれようとするのを制止して、紗和は続ける。
「僕は、初めに謝っておくべきだったのかも知れない」
言いながら、居住まいを直す。
「みんな、ごめん」
そう言って、紗和は頭を下げた。