第6章
君がために
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浅葱が、寛也の部屋を後にしてみんなの集まっている広間へ戻ってくると、全員がいっせいに振り返った。
その表情はどれも深刻で心配そうだった。碧海の言うことも本当だなと改めて思いながら、浅葱はそのまま元の自分の席に戻った。
「杳さん、どうなんだ?」
座につくと、碧海が心配そうに聞いてきた。が、浅葱にも容体がどうかだなんて分かる筈もなかった。ただ、ひどく顔色が悪くて尋常ではないだろうことは伺い知れたが、それだけしか分からず、心配に思うばかりだった。
「今、寝てる。寛也さんがついているからきっと大丈夫だよ」
しかし、そう言うものの、みんなの顔色は優れなかった。あんな様子を見た後では、簡単に大丈夫だと言ったとしても信用ないのだが。
気を失うまでなんて、どれだけ我慢していたと言うのだろうか。本当に、周囲の心配を気にもしない人だと、浅葱は胸が苦しくなる思いだった。
しんとした中、それに区切りをつけるように最初に潤也が声を上げた。
「それじゃあ、杳のことはヒロに任せるとして、もう遅いから、僕達もそろそろしまおう。続きは明日でいいだろう」
そう言ってすぐに腰を上げようとする潤也。それを紗和が制止した。
「その前に、凪」
古(いにしえ)の名を呼ばれて、潤也は少し眉をしかめながら、上げようとした腰を降ろした。
「この結界を作ったのは君だよね。もう少し強固なものにしたいから、引き継がせてもらいたいんだけど」
「ご自由に。僕の作ったものなんか子供だましみたいなものだ。父竜の攻撃を受けたらひとたまりもないことくらいは知っているよ。君の作るものの方が確実だろうからね」
少し険のあるその口調にすぐに自分で気づいて、潤也は小さくため息をついて気を落ち着ける。
「守りは新堂くんに任せるよ。好きにしていい」
「凪…」
ぴくりと、潤也の肩が震える。
「その名前で呼ばないでくれるかな」
潤也の声に、俯いていた翔が顔を上げる。その翔と目が合って、潤也は逃げるように目を逸らした。
何だか妙な雰囲気になっている様子に、また周囲もしんと静まり返っていた。
「…ごめん」
呟くように言ったのは潤也だった。