第6章
君がために
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 初めて入った寛也の結界内の部屋は、自宅の雑然として足の踏み場もないそれとさして変わらなかった。家具も机もなかったが、寝床の布団が散らかっていて、きっと朝起きたままで、畳むこともしなかったのだろうことが容易にうかがえた。

 相変わらず片付け下手だなと思いながら、浅葱は散乱していた布団を手早く敷き直して、寝床を整えた。

「悪ィな」

 超特急で布団を敷いた浅葱に、寛也は他人行儀にそう言ってから、腕に抱き抱えていた杳をゆっくり床に降ろした。

 少しでも衝撃を与えないようにと細心の注意を払っているのが分かった。普段の寛也の行動パターンから掛け離れたその様子に、浅葱は少し感心しながらも、何故かもやもやした気持ちが沸き起こった。

 何だろうかと首を傾げる。

 寛也はそんな浅葱に気づかないように、杳を横たえさせると、そっと布団を掛けた。

 ぼんやりとそれを見ていると、振り返ることなく寛也が声をかけてきた。

「ちょっと、治癒するから…出ててくれよ」
「え…」

 何となく二人っきりにするのが嫌だと思ったものの、寛也が言うのならと、浅葱は頷いた。

「じゃあ、何かあったら呼んでください。すぐに来ますから」

 そう言って部屋を出ようとして、ふと、呼び止められた。

「浅葱」

 振り向くと、寛也は顔を半分だけこちらに向けている。

「俺の宮の神子、お前なのに、悪ィな」
「いえ」

 反射的にそう答えて、障子を静かに閉める。

 先程のもやもやした気持ちの正体が掴めた気がしたが、浅葱はその気持ちに黙って蓋をした。

 閉める障子の隙間から見た寛也の背に、どこか遠いものを感じながら。


   * * *



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