第6章
君がために
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 父竜の隠し子でもいると言うのなら話は別だが、それこそ考えられなかった。

 父竜は母女を信じていたからこそ、綺羅が生まれた事が許せなかったのだ。綺羅が竜でなかったことが。その父竜が自分達以外に、他で子を成しているとは考えにくかった。

 だから、自分達以外に竜は存在しないのだった。

「杳はね、綺羅だよ。僕達の一番下の妹のね」

 そう言った潤也の言葉を受けて、紗和が結論づける。

「そして綺羅は竜の子で、僕達と同じ竜族…」

 二人の言葉に、握りこぶしを作るのは翔。そんな翔を横目に見ながら潤也は続ける。

「綺羅の、竜を封じる力も、僕達の持つ封印の力の延長線だと考えられる。何度も生まれ変わってくるのも、竜の力を持つからこそ」

 潤也はずっと不思議に思っていた。綺羅が何故、父竜を封じる程の力を持って生まれたのか。

 そもそも、自分達兄弟も同じ竜とは言え、それぞれが異なる性質を持って生まれてきているのだ。強大な力を持つ竜王もいれば、道端の小さな花を咲かせる竜もいる。それと同じように、綺羅も封じる力しか持たない「竜」なのではないだろうかと。

 杳の持つ力を目にする度に、そう感じずにはいられなかった。

 ただ、その考えには大きな壁があった。父竜が、綺羅が竜であることを否定したことだ。まだ生まれたばかりの乳飲み子を、一見しただけで人の子だと決めつけたのだ。

 何よりも神に近い存在の下した結論を、誰も疑うことはなかったのだ。

「じゃあ、父竜が見誤った?」
「いや…」

 潤也は僅かに首を振る。

「僕の言うのはただの推論だし、杳の持っていたものは竜玉そのものじゃない。あくまでも『竜玉のようなもの』、そこまでなんだよ」

 そうなのだ。何かが違うのだ。自分達竜族とは。多分、父竜もそれを見極めたのだろう。

「でも、たとえそうだとしても、もう杳兄さんは…」

 翔が震える声で呟いた。潤也が、その声に目を伏せた。

 自分達の中で、杳の未来を信じているのは、多分、寛也だけだという言葉を飲み込んで。


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