第6章
君がために
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紗和は湯飲みに一口だけ口をつけて、ポツリと言う。
杳の名を出しただけで全員がいっせいに振り向くのに少し笑みをこぼしてから続ける。
「彼の持っている不思議な力、気づいてる?」
自分よりもずっと、杳の身近にいた翔に目を向けると、翔は視線を背ける。
「杳兄さんは人間ですよ」
紗和の言わんとすることを察して、先に否定する。
「でも、綺羅も人間だと言われていた。それなのに、父竜を封じる力を持っていたんだ。綺羅も含めて、ただの人間にそんな力があると思う?」
「それはきっと、僕達の力が影響して…あまり側に居過ぎたから」
言いながらも、翔はそんなことが有り得るのだろうかと思っていた。
実際、自分達が子供の頃に一緒に育ったと言っても3年程のことだ。しかも翔の覚醒前だある。また、覚醒後も四六時中一緒にいた訳ではない。
それに比べたら、兄妹である聖輝と美奈の方が近くにいた時間がずっと長いだろう。美奈にもその力は多少なりとも備わっているが、それでも杳の持つものとは比べ物にならない筈だった。
「杳は一瞬でも、父竜の動きを封じたんだ。あみやの身体に自分の意識を移したうえで」
杳がどうやってあみやの身体に乗り移ったのかは知らないが、あの時あの場にいたメンバーから見て、杳が自らの力で行ったのだろうと考えられた。それ程のことが普通の人間にできるなど、到底考えられなかった。
「人じゃ…ない…?」
ポツリと言った潤也の言葉に、翔はすぐさま噛み付く。
「じゃあ何だって言うんですかっ? モノノケだとでも言うんですか?」
「そんなこと言ってないよ、翔くん」
取り乱す翔に、潤也は宥(なだ)めるような声で返すも、翔は睨んだままだった。そんな翔に、潤也は小さくため息をつく。
「ヒロが以前に言ってたことがあるんだ。杳の持っている勾玉の光、形を失ったにも関わらず存在しているのも奇妙だけど…。あれはまるで竜玉のようだって」
「!?」
紗和と翔以外が息をのむ。そんな周囲を気にせず、潤也は紗和を見る。
「新堂くんの目にも、そう見えたんだろ?」
問われて紗和は頷いて見せた。父竜を封じようとした杳の手に中に生まれた光――それはまさに、竜玉に見えた。
と、横合いから口を挟むのは露。
「あ、でも、オレ達以外に竜なんていない筈だろ? 父竜の最初の子はあんた達竜王で、最後は戦だ」