第6章
君がために
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「おい、何かあったの?」
寛也達を見送って全員が座に戻ると、未だ新顔の露が口を開いた。
「あれ、すごく参ってるように見えるけど」
杳の尋常ではない様子を訝しがる露の言葉に、翔は黙したまま目を伏せる。どんな状態なのか、話す気もないのだろう。同じように潤也も口を開くことはなかった。
代わりに答えたのは、紗和だった。
「杳は、あみやの身体に乗り移ったんだ。父竜を封じようとしてね」
紗和の言葉に、翔は顔色を変える。
「まさか…」
「そのあみやは、父竜に消滅させられた。一瞬のことだったから僕にも何もできなかったけど、杳が助かったのは奇跡に近い」
実際、紗和には手出しすることすらできなかった。自分の目の前で、成すすべもなく粉々になった少女の姿が思い起こされる。
「僕は…そんなことの為に…」
翔は握りこぶしする。
あみやの身体が現存していることは知っていた。浅葱に話した通りであるが、杳にそんなことをさせる為にあみやの身体を残していた訳ではない。
今更あみや自身の身体に興味がないと言いながらも、未練が拭い切れなかっただけだった。
それなのに、何故杳はそんなことをしようとするのか。二度と戦いの場になど駆り出したくないのに。ましてや、あみやの身体に乗り移るなど、どれ程自分を苦しめる気なのか。否、杳の意図は知れていた。自分達を父竜から守るために、自らの命を投げ出した綺羅と同じなのだ。
同じように、自分の身など顧みないのだろう。
翔はもう一度立ち上がる。
「翔くん」
今まで黙って成り行きを見ていた潤也が声をかける。
「ヒロがついてる。杳は大丈夫だよ」
そう言った潤也を思わず睨んでしまう翔。
「本気でそんなことを言ってるんですか? 戦にこれ以上何ができるって…」
「少なくとも、杳はヒロの力しか受け入れないんだから、それに頼るしかないだろ。今、君が行っても邪魔になるだけだよ」
穏やかにそう言いながらも、潤也は俯く。自分だとて同じなのだ。何もできずに見守るしかない不甲斐なさが何とも口惜しい。その気持ちが伝わったのか、翔は黙って座に戻った。
しばししんとしてしまった中、紗和がみんなの様子に目を向けながら、つと話を切り出した。
「その杳のことなんだけどね」