第6章
君がために
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 杳は、俯いたままの横顔は青白く、先程からずっと半分うつ伏せたような格好で動くこともなかった。

「大丈夫ですか? やっぱり少し休んできた方が…」
「平気。ここにいる」
「でも…」

 小さく返す言葉にも力はなくて、明らかに具合が悪そうだった。

「杳兄さん、疲れてるなら休んでていいんだよ。結果は明日にでも教えてあげるから」

 そう声をかける翔にも首を振る。

 こうと決めたら人の言うことなんて聞かない杳に、浅葱はどう声をかけようかと迷っていると、自分達の位置からは一番離れた席に座っていた寛也の声がした。

「ここにお前がいても、やれることなんてないだろ。部屋で寝てろ」

 そんな居丈高な口調では杳が反発するだけだと、寛也も分かっている筈だろうと心配する浅葱の目に、杳の握り締めた拳が見えた。

 その手を浅葱はそっと取る。

「僕、一緒に行きますよ。ね、杳さん」
「いい」

 が、杳はその浅葱の手を振り払って、ゆっくりと立ち上がると、みんなの視線が集まっていると分かる中、黙って部屋を出ていった。

 しんと静まり返った部屋の中、何となく気まずい空気が戻ってきたようで、浅葱は居心地悪いなと思いながら席についた時。

 ガタッ。

 廊下から僅かな物音が聞こえた。その音に一番に反応したのは寛也だった。すぐさま障子を開けて外に飛び出した。

「杳っ!?」

 何事かと立ち上がって廊下を見るみんなに習って、浅葱も部屋の外へ出ると、そこに柱に寄りかかるようにして跪く杳の姿があった。

 抱き起こすようにして支える寛也。

「杳…おい、杳っ」

 寛也の呼ぶ声に、俯いたままの杳は寛也の服の胸元を握り締める。

 先程までどのくらい我慢していたのだろうか。その額には脂汗が幾つも浮かんでいて、呼吸も粗かった。

「…ヒロ…」

 名を呼んだ。寛也にしか届かないような小さな声が聞こえたかと思ったら、杳はそのまま寛也の腕の中へ崩れ落ちた。

「杳っ」

 意識を失ってしまった杳を、寛也は軽く抱き上げる。その眉が僅かに寄せられた。

 浅く呼吸を繰り返す杳は、とても苦しそうに見えた。浅葱は慌てて駆け寄った。

「僕、杳さんの布団、敷いてきます」

 そう言って先に駆け出そうとする浅葱の背に、声をかける寛也。

「俺の部屋がすぐそこだ。そっちに寝かせる」
「え…?」

 どうしてかと尋ねようとするが、すぐに歩き出した寛也に、浅葱は慌ててついて行った。

「じゃあ、手伝います」

 そう言って、浅葱は速足で寛也を追いかけた。


   * * *



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