第6章
君がために
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 翔の言葉に、紗和は苦笑して見せる。自分の不甲斐なさを悔いているようだった。

 その紗和に翔は淡々と言う。

「父竜は誰も信じてなんかいませんから。今更彼にはそんな必要もないでしょうけど」
「あーあ、根の暗いヤツ。そんなだから女にも逃げられるんだ」

 茶々を入れる露をスルーして、翔は紗和に向く。

「こちらの戦力はこれで全部です。木竜の犀樹(せいじゅ)、天野松葉くんは初めてですよね? それから、今出て行った女の子二人と、向こうに座っているのが竜の宮の神子の転生者達です。勾玉を持っています」

 翔は、さらりと簡単にみんなを紹介する。杳のことは触れずに。

「あと、華竜は姿をくらましたままです。闇竜は父竜についたそうですね」

 そう翔に教えてくれたのは紗和だったのだが。紗和は翔の言葉に小さく頷く。

「彼も僕と同じ意見だとは思われなかったけど」
「去る者を追う必要はないでしょう」
「そうだね」

 他者の意見を聞くでなく、二人で全てを決めてしまいそうな勢いの二人に、聞いていて浅葱は少しハラハラしてしまう。

 が、それも実力の差なのか、他の竜達である潤也や寛也が口を挟まないで黙って聞いているのに、自分が口出しできる訳もなかった。

「残るは詩弦ひとり?」

 竜達は父竜を除いて全部で11体である。ここに8人いて、一人は逃亡、一人は敵についているとなると、残りは一人である。

「犀樹の件もあるからね。危険が迫っているかも知れない。すぐに捜そうか」
「陣を固めて戦略を練るよりも先に? 勾玉を守る方が優先じゃないですか?」

 翔の言葉に、紗和は一瞬意外そうな表情を浮かべてから、すぐに柔らかく笑む。

「それは僕が引き受けるよ。君は詩弦を保護して。彼も綺羅と同じく僕らの大切な兄弟だから。失う訳にはいかない」
「分かりました。何とか捜しましょう」

 言いながらも翔は、少しホッとしたような表情を浮かべる。あとたったひとりだけなのに、助けられないかも知れないと危惧していたのだった。

「と言っても、2年前の集合の後、彼は一度も竜体になっていないらしくて、竜気すらたどれないんです」

 だから一番最後になったのだ。唯一居場所を知っている雪乃は、それを言う前に消えてしまったので、他に探す手立てがなかったのだ。

 すると、今まで竜王達の会話を黙って聞いていた露がポツリと言う。

「東京近郊にいると思うけど…」

 その言葉に、翔と紗和が振り向く。


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