第6章
君がために
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消えた時とはあたかも逆回しの映像のように、翔はその場へ姿を現した。違っていたことと言えば、今度は潤也も一緒だったことだ。
「ようやくご帰還か」
そう声をかけられて潤也は振り返る。
そこに、玄関から繋がるキッチンの椅子に寛也が一人で座っているのを見つけて、潤也は少し首をかしげる。てっきり杳の側にいるものと思っていたのだ。
「こんな所でどうしたの? 結界の中にも入らずに」
「ああ。お前らを待ってた」
そう言って白い歯を見せて笑う寛也。
そんな寛也の晴れやかな顔は久しぶりに見た気がした。それこそ、東京へ出発する時の、あのにやけた――潤也にはそう見えた――顔以来のような気がする。
「杳を取り戻してくれたんだって? さすがだね。ありがとう」
元を正せば、力及ばず、守り切れなかった自分に責任があるのだと、潤也は思っていた。自責の念に駆られていた時の朗報に、救われた気がしたのだ。
素直に礼を言う潤也に、寛也は照れたように肩をすくめて見せる。
「取り戻したって言うか、佐渡が言いくるめたって言うか。どちらにしても俺の手柄じゃねぇよ」
「手柄だよ。杳を助け出せるのはヒロしかいないんだよ。昔からね」
そう言って、寛也の背をポンと叩く。
結果、佐渡は敵に回ってしまうこととなった。あれは十中八九、寛也を庇っての行動だろう。無事だと良いのだがと呟く寛也に、潤也は何だか寛也が少し頼もしくなったような気がした。
何か乗り越えたものがあったのだろうか。ゆっくり話を聞きたいような気もしたが、今はそうもしてられなかった。
こんな真夜中にわざわざ病院まで自分を迎えをよこすのだから、やはり事は切迫しているのだろう。
「とにかく、中へ入ろう。みんな待ってるんだろ?」
「そーだな」
寛也の他人事のように言う口調にどこかおかしさを感じながら、潤也は先に結界の暖簾をくぐった。
* * *