第6章
君がために
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「何をしている? さっさと中へ入れ」

 入り口で障子を開けたまま部屋の中へ入ることができないでいた紗和は、背後からそう声をかけられた。案内だけしてくれて、そのまま自分を放って先に部屋へ入ってしまった杳を見ながら、立ち止まってしまったのだった。

 振り返ると、優がいた。彼は棒立ちの紗和の脇を抜けると、自分も先に部屋へ入る。

「おー、お姫様奪還の功労者のご帰還かぁ」

 そう揶揄を飛ばすのは露だった。

 自分は取り返しに行こうと一番に手を挙げて言ったのに待機を命じられてしまい、まだ少し機嫌が悪かった。

 優はそれを無視して、紗和を振り返る。

「お前も中に入れよ」
「あ…えーと」

 紗和はここまで来たものの、さすがに中に入るのをためらってしまっていた。それもその筈、紗和の姿に部屋の中はしんと静まり返っていたのだった。

「仕方ないんじゃねぇか。お前、父竜についてたし。まだ信用ならないからな」

 ずけずけとそう言って、優はぐるりと部屋の中の連中を見回す。

 脅えているのは松葉だけのようだった。

 神子達は杳と浅葱以外は面識がないので黙って様子を見ていた。

 その一方で、露はテレビを見ていて、聖輝は興味なさそうに雑誌を広げていたが、ともにこちらに向けて神経を研ぎ澄ましたままだった。

 殺気こそ感じられなかったが、入りづらいのも理解できた。

「まぁ、入れば? 戸、閉めてくれねぇと寒いし」

 そう言ったのは意外にも露だった。もう一度紗和を見やってから、すぐに視線をテレビの方へ戻す。

 そんな風に声をかけてくれる露が一番刺のある目を向けてくると思いながらも、紗和はようやくに部屋に足を踏み入れた。

 座布団に座るのも申し訳ないと思ってしまい、部屋の隅の畳の上に直に座ると、座布団を一枚投げられた。露だった。

 歓迎されているのか、いないのか判断に困ると、紗和は苦笑して、座布団を敷いた。


   * * *



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