第6章
君がために
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 障子を開けると、中にいた全員がいっせいに振り返った。その様子に、杳は一瞬足が止まる。

「杳さんっ」

 名を呼んで一番に飛んできたのは、部屋の隅で所在なさそうに群れていたうちの二人、碧海と美奈だった。二人は我先にと杳の元へ駆け寄ってきた。

「良かったー、無事だったんですね」
「もうてっきり帰って来れないかと思ってた」

 子犬みたいだと思いながらも、杳はそう言った碧海の頭をポカリと殴る。

「そんな訳ないだろ」
「ですよねー。杳さんにはナイトがいっぱいいるし」
「何のことかなぁ?」

 杳は今度は碧海の唇の両端をつまんで、左右に思いっきり引っ張った。容赦なく。

「いたたたたたたたっ」

 慌ててその手から逃げる碧海を睨む杳に、もう一人近づいてくる。

「まあまあ。碧海の言うことなんて気にしないでください。最近、壊れてますから」

 苦笑まじりにそう宥めるのは浅葱だった。抗議の声を上げる碧海を片手で脇へ押しやって、続ける。

「それより、疲れたでしょ? 少し休んできたらどうですか?」

 見るからに生気のない顔をしている杳に気づいて、幾分眉を寄せながら言う。しかし杳は耳を貸すつもりはないようだった。

「平気。寝てたらまた、オレ一人のけ者にされる」

 言って杳は、広間の中をぐるりと見回す。その中で気に入った場所を見つけたのか、それ以上の愛想もなくそちらへ向かって、座についた。

「心配してたのに…」

 杳の態度に少しガッカリしたように呟く碧海。その背をポンと叩いて浅葱が言う。

「あれって、ものすごく照れてるんだと思うよ」
「はあ?」

 怪訝そうに振り返る碧海に、浅葱はくすくす笑って見せる。

「碧海、修行が足りないよ」
「何の修行だよ?」
「杳さん修行。あの人、分かりにくい反応するからねー」

 楽しそうにそう言って、碧海は一足先に、杳の座した席の隣に自分の座布団を敷いた。

「ちぇっ」

 軽く舌打ちして、碧海も浅葱に従った。


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