第6章
君がために
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杳と紗和の二人は、まるで暖簾をくぐり抜けるかのように結界の中へ消えて行った。何も言わずに事の成り行きを見ていた優もその後に続いて結界内へ入っていった。
その彼らの背を見送ってから、寛也は大きくため息を漏らした。
杳の心をどうやったら取り戻せるのか分からなかった。もう、取り戻せないものなのだろうか。
そう弱気に考えて、すぐに、否と寛也は顔を上げる。
決めたのだ。
杳が誰を思っていても、自分の気持ちに変わりはない。ずっと杳を守っていくのだ。何があっても。
そう考えたら、不思議なことに、一瞬で心の中の曇りが晴れていった。
落ち着いた気持ちが、ひどく懐かしい気がした。
そうだ。杳のことを好きだと思い始めた時も、こんな感じだったろうか。ただ一途に思っていた頃の事が蘇る。
あの頃と、杳を思う気持ちに変わりはないのだ。いや、思いは深くなっていっている。
そう、確信できた。
誰よりも、何よりも、愛している――。
「懲りないんですね」
まるで寛也の心の中を見透かしたように、翔が言った。
「でも、僕も諦めませんから」
挑戦的な口ぶりに振り返ると、彼は玄関口で靴をはいていた。紗和に言われた通り、潤也を迎えに行くのだろう。
意外と素直に聞き入れたものだなと少し感心する寛也に背を向けたまま、翔の姿は予告もなく一瞬で空気に消えた。
竜体にならずに、瞬間移動で病院まで飛んだのだろう。
何度見ても無気味な術だと思いながら、寛也はそのままキッチンの椅子に腰を降ろした。
心に余裕ができたのか、帰ってくる潤也と翔をを待ってやろうという気持ちになって。
* * *