第6章
君がために
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「杳兄さんっ」
結崎家のアパートに到着した途端、翔が結界から飛び出してきた。
ずっと神経を研ぎ澄まして、紗和達の気を探っていたのだろうか。待ち切れないように、慌て急いだ様子が見受けられた。
帰ってきた杳は、紗和に半分抱き抱えられるようにしてようやく立っていた。その顔色はひどく青白かった。
「休ませてあげられる場所、ある?」
聞く紗和に、後から続いて部屋に入ってきた寛也がすかさず口を挟んだ。
「俺のベッドがある」
「結界内へ運びます。その方が安全ですから」
寛也の意見を完全に無視して答える翔に、紗和もうなずく。
「そうだね」
それから寛也を振り返る。
「戦、代わってくれる?」
「え?」
「杳を寝床まで運んであげて」
紗和はそう言って寛也に杳を託そうとする。その間に入ってくる翔。
「だったら僕がやります」
「君は凪を呼んできて。ここにはいないんだろう?」
潤也の気配が感じられないことにすぐに気づいたのだろう。病院での件は知らされていたので、何事もないようにそう言ってから、続ける。
「陣を固めて、体勢を立て直そう。僕達が全力で立ち向かっても勝てる相手じゃないけど」
そんな最後の言葉は自嘲気味だった。
「え…それじゃあ、新堂さん」
「こちらの陣営に加わるよ。もう、後がない」
少しホッとした表情の翔は、これまで平気な顔を見せていたのだが、それでも紗和のことを頼りに思っていたのだろうことが知れた。
そんな翔を見ながら、紗和は杳を寛也に渡そうとする。しかし杳はそれを拒否する。
「いい。広間に行く。作戦会議だろ? オレも加えて」
強気に言いながらも、その顔はすっかり色を失っていた。どれだけ具合が悪いものか。しかし、頑として聞き入れそうもない目を向けてくる。
「でも、お前な…」
「いいよ」
反対しようとする寛也をやんわりと遮る紗和。
「君も僕達の大切な仲間だから、加わって」
その言葉に杳は僅かに笑みを浮かべて、紗和の手を放す。自分の足でしゃんと立てることを示したいのか。しかし、その足元はすぐに崩れそうに見えて、紗和はもう一度杳の手を取った。
「じゃあ、案内してくれる?」
紗和は優しくそう言って、杳の身体を支えた。
* * *