第5章
神を封じる者
-4-

21/22


 夜の闇に父竜と青雀の姿が完全に消えてから、寛也は竜身を解いて紗和の結界に駆け寄った。

 誰の施したものであっても変わらずくぐりにくい結界に、無理やり力任せに潜り込む。

 潤也の張る結界とはどこか違う感じがしたが、全力の炎の力にびくともしなかったことに、翔と同じく圧倒的な力の差を感じずにはいられなかった。

 その結界の中、未だ目を覚まさない杳の手を握って、紗和は呪文をつぶやいていた。

 寛也はその横にひざまずき、杳の青白い顔を覗き込む。それは、生者のものとは思えない程に血の気をなくしていた。ぞっとする気持ちを抑えて、寛也は恐る恐る聞いてみる。

「どう…なんだ?」

 一心に術を唱える紗和の額からは、幾筋もの汗が滴っていた。

 先程からどれくらいの時間が過ぎたものか。自分が戦っている間、杳の魂は元の身体に帰ってきていなかったのか。戻れないまま、どうなってしまったのか。どうなるのか。

「ダメ…だ…」

 つぶやく紗和。その握った杳の手は、もう冷たくなっていた。

 棒立ちのままで見守っていた茅晶がポツリと言う。

「息…してないんじゃない?」

 その言葉を、首を振って否定する寛也。

「馬鹿言ってんじゃねぇよ」

 言い様に、杳の肩を抱き上げた。

「杳、おい杳…目を開けろ」

 軽く揺すって、耳元で名を呼ぶ。

 つと、開かれる瞼。

 それは、まるで寛也の声にだけ反応したかのように、杳はゆっくり呼吸を始めた。

「うそ…」

 呟く紗和。

 今の今まで、どれだけ力を尽くして術を施したと言うのか。それが全く効かなかったものが、こんなに簡単に魂が戻ってくるとは思えなかったのだ。

 信じられないものを見るように、紗和は二人を見やった。


<< 目次 >>