第5章
神を封じる者
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夜の闇に父竜と青雀の姿が完全に消えてから、寛也は竜身を解いて紗和の結界に駆け寄った。
誰の施したものであっても変わらずくぐりにくい結界に、無理やり力任せに潜り込む。
潤也の張る結界とはどこか違う感じがしたが、全力の炎の力にびくともしなかったことに、翔と同じく圧倒的な力の差を感じずにはいられなかった。
その結界の中、未だ目を覚まさない杳の手を握って、紗和は呪文をつぶやいていた。
寛也はその横にひざまずき、杳の青白い顔を覗き込む。それは、生者のものとは思えない程に血の気をなくしていた。ぞっとする気持ちを抑えて、寛也は恐る恐る聞いてみる。
「どう…なんだ?」
一心に術を唱える紗和の額からは、幾筋もの汗が滴っていた。
先程からどれくらいの時間が過ぎたものか。自分が戦っている間、杳の魂は元の身体に帰ってきていなかったのか。戻れないまま、どうなってしまったのか。どうなるのか。
「ダメ…だ…」
つぶやく紗和。その握った杳の手は、もう冷たくなっていた。
棒立ちのままで見守っていた茅晶がポツリと言う。
「息…してないんじゃない?」
その言葉を、首を振って否定する寛也。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ」
言い様に、杳の肩を抱き上げた。
「杳、おい杳…目を開けろ」
軽く揺すって、耳元で名を呼ぶ。
つと、開かれる瞼。
それは、まるで寛也の声にだけ反応したかのように、杳はゆっくり呼吸を始めた。
「うそ…」
呟く紗和。
今の今まで、どれだけ力を尽くして術を施したと言うのか。それが全く効かなかったものが、こんなに簡単に魂が戻ってくるとは思えなかったのだ。
信じられないものを見るように、紗和は二人を見やった。