第5章
神を封じる者
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青雀――佐渡だった。
『どけ、佐渡っ』
寛也の声に見向きもせず二体の竜の間に立ち塞がる彼は、寛也をかばうようにも、父竜をかばうようにも見えた。
『あんたの封印はまだ残ったままだ。戦の他に地人も控えているこの場で、結果として倒れるのがどっちかなんて、分かってねぇ訳じゃねぇだろ?』
佐渡がそう言った相手は父竜だった。彼の目には父竜が不利だとでも見えたのだろうか。いや、それよりも寛也を助けようとしているのかも知れない。
『まずやることは封印を解くことだろ? そうしない限り、あんたは…』
『お前に指図される覚えはない。下がっていろ』
低く聞こえる揚の声は、底に怒りを含んでいた。その目の前、立ちはだかるように翼を広げる青い鳥。
『俺はあんたの一部であり、あんた自身でもあるんだ。指図できる立場だ、忘れたか? もう少し冷静になれよ』
そう諭す青雀の背は、寛也の炎竜よりもずっと小さい。その身で巨竜の前に立ち塞がる度胸の前に、寛也は黙って気を収めた。それでも竜身を解かずに、鋭く相手を睨んだままではあったが。
その真意を見透かそうとでもしているように、しばらく父竜は青雀を睨んでいたが、やがてその気を静めた。
『こんな所で小競り合いをしていても始まらないと言うことか。いいだろう』
炎竜を見下ろす父竜。
『この場は引いてあげよう、戦』
そんな口先三寸に従うなど、寛也には信じられなかった。それだけ父竜は青雀の言葉を信頼しているか、または元々自分の一部であった者を疑うことをしないのか。
それとも本当に、自分達が全力で当たれば、父竜を倒すことができるものなのだろうか。父竜はそれを恐れているのだろうか。
『だが、次に会うときは、お前達の命の尽きる時だと思うことだ。容赦はしない』
強い口調でそう言って、父竜は身をひるがえし、ゆっくりと天へ昇っていく。
見上げる寛也の目に、ふと、翼をはためかせて、その後を追おうとする青雀の姿が映った。
『佐渡っ』
名を呼ぶと、一度だけ振り返ったように見えたが、青雀はそのまま父竜と同じように天空へ舞い上がっていった。
* * *