第5章
神を封じる者
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「杳…俺が分かるか?」
虚ろに見上げてくる瞳が焦点を結んだが、すぐに寛也から視線が逸らされた。そっと寛也の胸を押して、身を引く杳。
「紗和…」
杳の呼ぶ声に、紗和はハッとして顔を近づける。
「なに?」
「あみやの身体…」
聞かれて紗和は、室内の惨状を見回す。天井は抜け落ち、柱や壁は吹き飛んでいた。そこは戸外も同然だった。
その中で、既に形を止めていないその身体は、もう、どこにもなかった。紗和の目の前、揚の手によって肉片すら止めないくらいに四散したのだ。
「…君が無事で良かったよ」
紗和の言葉に杳は目を伏せる。その表情は強ばっていて、それが失意によるものか、体調の不調によるものか紗和には判別しかねた。
「翔くん達の所へ戻ろう。送っていくよ」
「うん…」
うなずいて杳は紗和の手を取る。
寛也は自分の腕の中から離れていく杳を、胸が締め付けられる思いで見つめていた。
自分が連れて帰ると言えない自分に、拳を握りしめて。
* * *
地竜王の持つ竜玉の中は、人を収納できるようになっているらしかった。そう言えば寛也と一緒に、これに取り込まれたこともあったなと思い出して、杳はずっと後方を飛ぶ寛也の炎竜に目を向ける。
優の光竜よりも遅れていることに、ふて腐れているのが丸分かりだった。そして、杳を心配してくれていることも、十分に分かっていた。しかし、寛也の思いに答えられるだけの時間もないのだ。覚悟を決めていた。
『杳、寒くない?』
気遣ってくれる紗和に小さくうなずいて、球体の中でうずくまる。
身体の不調が限界のようだった。もしかしたら、あみやの身体に移ったことが原因だろうか。それとも、勾玉の存在を身の内に感じなくなった――勾玉は、あみやの身体とともに散ったのだろうか――のが原因か。
何れにしても、あみやの身体を使っても力が及ばなかった今、もう自分にできることは何もない。
封じることができなかった父竜は、近いうちに必ず戦いを仕掛けてくるだろう。その時、竜達はどうするだろうか。
その前に、もし自分に何かあったら、翔はまた正気でいられるだろうか。
そして、寛也は――。
残された時間で、自分に何ができるだろうか。
杳は手を離れてしまいそうになる意識を何とか繋ぎ止めながら、気づけば寛也とのことばかりを考えていた。