第5章
神を封じる者
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『そこまでか』
なぎ払った尾をひるがえして、父竜が言った。その眼下には地面に叩きつけられた炎竜がいた。これで何度目か、その辺り一帯の地形が変わってしまっていた。
余裕で宙を舞う巨竜を睨み上げて、炎をまとった竜はもう一度天へ駆け上がった。
『まだまだーっ』
寛也にもすぐに分かった。父竜との力の差は竜王の比ではない。翔や紗和が怯む理由を、たった数回の力のぶつかり合いだけで思い知らされた。
寛也は自分の目の前に立ち塞がるものが、見た目以上に大きい存在であることを知る。しかし、それを上回る程に強く思う気持ちが、何度も寛也を立ち上がらせていた。
振り降ろされる雷(いかずち)を避けて、吐き出した炎を鎧に変えた炎竜は、巨竜に向かって体当たりしていく。それを待ち受ける父竜。
二体がぶつかり合った瞬間、爆発音とともに炎が弾け飛んだ。一瞬、衣を失った炎竜の身を大きな尾が殴りつけ、地面に叩きつける。
『くそ…っ』
落とされる先が紗和の結界の真上だと瞬間に気づいて、寛也は炎とともに吐き出す気で、わずかに落下地点をずらした。
父竜の狙いが分かって、ますます怒りが沸き起こる。
見上げた上空に、こちらへ真っすぐ向かってくる父竜の姿が見えた。押し潰される前にと、炎竜は父竜の懐に飛び込んだ。それと同時に、炎を吐き出す。
咆哮が、夜空に木霊する。
腹を黒く焦がした父竜が、驚いたように身を引くのが寛也に見えた。
が、次の瞬間、炎竜の頭上に雷が落とされる。それをまともに身に受けて、炎竜は再び地面に叩きつけられた。
竜体になって痛みを感じることなどほとんどなかった筈なのに、寛也は身体中の骨が折れたのではないかという程の痛みを感じた。それでも、すぐに治癒していく身体。
このまま戦っていても、いずれ先に力尽きるのは自分の方だ。その証拠に、天を泳ぐ巨竜は傷のひとつも負っていないように見えた。寛也の作り出す炎など、火傷程度にも感じないのだろう。
圧倒的な力の差。
寛也は唇をかみしめる思いで、父竜を見上げる。
敵わないのなら、せめて一矢報いてやろうと思った。
先程の炎に傷ついた腹はすぐに癒えているようだったが、傷を負わせられたのはその場所だけだった。自分の持つ力を全てぶつければ、何とかなるかも知れない。
そう思って、ふと杳を見やる。