第5章
神を封じる者
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『その力、失うのは惜しい。どうだい、僕の側につく気はないか?』

 攻撃を始めようとした矢先のその言葉に、寛也は鼻白む。

『俺がお前の仲間になると思ってるのか?』

 杳をさらっておいて、しかも潤也に怪我まで負わせてと付け加える。誰が寝返ろうとも、自分だけは有り得なかった。

『ああ、凪とは現世でも兄弟なのか』
『ジュンは俺の弟だ。杳は俺の…』

 杳は寛也のことを恋人だとは言ってくれないが、寛也は自分ではそう思っている。そう、改めて思い直して続けた。

『杳は俺の恋人だ。そいつら、手にかけておいて仲間になれとは良く言えたものだな』

 言ってしまって、これが知れたらまた杳に殴られそうだと思った。

 そんな寛也を、父竜が鼻先で笑ったような気がした。

『凪はとっくに治癒しているだろう? 致命傷を負わせてはいない筈だ。杳くんは楯突いたので、少し懲らしめてやったがね』
『んのやろぉ』

 寛也は思わずカッときて、火を吹く。炎の塊を、父竜はその程度のものと思うのか避けることもせずに、一息でなぎ払った。炎は火の粉となって四散する。

『いいのか、戦。あのまま放っておくと、早晩、杳くんは死ぬ。僕ならそれをくい止めることができるが』

 再び向かっていこうとする寛也は、揚の言葉に思わず立ち止まる。

『見たところ、かなり衰弱している。君達、天人を筆頭に巨頭が雁首揃えていても助けられないんだろう?』

 確かに、翔や潤也の力では杳に術を効かせることができなかった。しかし、彼らの力を凌ぐ父竜の術であれば効くかも知れない。杳を助けられるかも知れない。もし、それが叶うのなら――。

 そう思いかけて寛也は首を振る。そんなことをしても杳は絶対に喜ばないだろう。

『僕ならそれができる。どうだい、戦』

 今までどれ程に杳の身を案じたことか。それは我がこと以上に。

 何度も倒れて、その度に苦しそうにしていて、それでも逃げ出さずに頑張っていた。その姿を見て、絶対に助けてやりたいと思い続けてきた。その願いが叶うのだ。しかし、きっとそれは杳の気持ちと、今までの頑張りを踏みにじることになるに違いない。そう、確信できた。

 寛也はまだ甘い言葉で誘惑しようとする父竜に、真正面から向かい合う。

『お前が昔からの企みを捨てて、仲間になりたいって言うなら仲間に入れてやるが、てめーの企みに加担しろって言うなら、他をあたれ。俺は絶対に従わねぇよ』

 そう言い切って寛也は気を高める。

 つい先程まで、父竜に敵う筈もないと口走っていたことは奇麗に忘れた。どれ程の体格差も、どれ程の力の差も、寛也に恐怖を感じさせることはなかった。身の内からあふれ出る熱い思いが、炎となって寛也の炎竜を包み、炎をたぎらせた。

『そうかい、残念だよ、戦。11番目の子、お前が最初に消滅することになるとは』

 父竜の身から溢れ出る気が、大きさを増すのが分かった。が、寛也は怯む気が起こらなかった。それどころか、自分の気も自然と内から高まっていくのを感じた。

『俺はここでくたばる訳にはいかねぇ』

 眼下に見える杳の姿。紗和がその手を取って魂に呼びかけている。その杳をどうしても連れ帰りたい。苦しんでいるだろう身体を癒してやって、それから仲直りして、今度こそはっきり聞きたい。杳の思いを。

『覚悟しろ、ウドの大木野郎ーっ』

 叫んで、寛也は咆哮をあげて突っ込んでいった。その身に燃え盛る紅蓮の炎をまとって。


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