第5章
神を封じる者
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「…っ」

 痛みを覚えた手を見やると、皮膚が裂けていた。

「やめろ、杳っ。これじゃあお前が持たねぇだろっ」

 怒鳴るが、寛也の声に耳を貸そうとしない杳。

「これしか、方法、ないから」

 あみやの身体が光を増す。その光は揚を包み込んで縛り上げるように、締め付けた。

「何だ、これは…」
「もう一度封印してやるよ。この、竜の血を引く身体で」

 揚は纏わり付く光を蹴散らそうとするが、もがく度に余計に絡まっていくようだった。元々の勾玉の力が残っている状態だったことに加えてのこの力に、揚は次第に自分の力が失われていく気がした。

「おのれ…」

 揚はその身に懇親の力を集める。杳の封じる力を上回る力で、杳ごと封印を弾き飛ばした。

「杳っ」

 床に叩きつけられる杳。すぐに起き上がろうとするが、揚の足がその背を踏み付ける。

 床に押し付けられる格好の杳に、寛也は逆上する。

「このやろーっ」

 寛也は揚に再び体当たりした。慣れない肉弾戦に、よろめいて倒れる揚。その上に馬乗りになって、寛也は揚の胸倉をつかみ上げる。

「人のもんに手ぇ出してんじゃねぇよっ!」

 拳を振り上げた。しかし、それを揚にぶつける間もなく、寛也は天井へ一気に叩きつけられた。

 天井の電灯にぶつかり、砕けた破片とともに床に転がる。

「ヒロッ」

 起き上がろうとする杳。それを支えるのは紗和。自分の怪我の修復もままならないままではあったが。

「一旦引こう。こんな戦い方は無茶だ」
「戦いじゃないよ」

 杳は紗和を突き飛ばして立ち上がる。

「戦いになんてさせない」

 再び杳の手のひらに光の玉が現れる。その光は、勾玉のような、恐れを感じることはなかった。紗和はそれを間近に見て、それが何なのか思い当たることにハッとする。

「杳、待って。それは…」

 紗和が言葉を発する前に、杳の呟いていた呪文が完成する。再びその術に捕らわれる揚。

 振り向いた形相は、怒りの極致だった。

「綺羅…か…」

 その姿はあみやであるが、揚の目には綺羅に重なる。

 同じ力を持つ者として。

「ゆるさんぞ、この裏切りの証しが…!」

 その怒りの刃が空を切り裂き、杳の身体に突き刺さる。

 紗和の目の前、血飛沫が上がり、悲鳴ひとつ上げることなく、その身は真っ二つに切り裂かれた。

「杳っ!」

 手を伸ばそうとするその寸前に、再び紗和の目の前をかすめる爆風。

 その中心で粉々に砕け散る杳――あみやの身体が見えた。


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