第5章
神を封じる者
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 そう言うと、揚は気を膨らませていった。

 作り出される手のひらの光球は、紗和が弾き返せない程に膨らんでいく。それを揚は杳の額に押し付けた。

「やめて…やめてください」

 紗和は立ち上がろうとするが、膝に激痛が走り、そのままうずくまる。人間体の骨が損傷しているのが分かった。

「遊びはこれで終わりだ」

 フッと笑んで、光を発動させようとした。

 その寸前。

 揚の身体に向けて、ひとつの影が体当たりしてきた。

「!?」

 揚は、体当たりしてきた影とともに、簡単に床に転がった。

 紗和の竜の気と、杳の封印の気とに気を取られていて、部屋に近づいてくる別の気配を見逃していたのだった。

 受身も取れなかった揚とは対照的に、相手はすぐさま身軽に立ち上がって、揚を見下ろしてきた。何事かと見上げて、覚えのない顔に揚は眉をしかめる。

「どうやって入ってきた?」

 ゆっくりと身体を起こしながら相手を見やる。その身から感じる気配は人間のものだったが、どこか違和感を覚えた。

 自分の様子を探る揚に、相手は睨んだまま軽く舌打つ。

「父竜って言うからどんな奴かと思ってたけど、弱い者いじめの卑怯者じゃねぇか」

 その声に、胸が熱くなる杳。

 寛也だった。

 終わりにしようと杳から言ったことなのに、それでも助けに来てくれたのだ。もう会えないと覚悟までしていたのに。

 杳は、泣きたいくらいに胸が締め付けられるのを感じた。

 その一方で、揚は寛也の顔に眉の根を寄せる。

 いや、よくよく見ると、見覚えのある顔にそっくりだった。杳を捕らえた病院で会った顔と同じである。しかし、その気配は全くの別人だった。

「凪…ではないな。誰だね、君は?」
「てめぇなんかに名乗る名前はねぇよ」

 揚にそう答えて、寛也はその側にうずくまるあみやの姿に目を向ける。

「ばかやろう…」

 呟くように言う寛也に、杳は顔を上げられなかった。

 こんな姿でも一瞬で気づいてくれるのだ。涙がこぼれそうになった。

 もう、これで十分だと思った。

 これで――。

「こいつは返してもらう。来い、杳」

 寛也は杳の肩に触れようとするが、しかしその手は杳に跳ね返された。

 はっとする寛也の目の前で杳の手に現れるもの――かつて見た、形を失った勾玉だった。

 杳は、それを素早く揚の胸に押し当てる。一瞬で逃げ遅れた揚は、勾玉に捕らわれる。

 柔らかな光があふれる。その光は揚とともに杳の身を包み込んでいった。

「杳っ」

 寛也は何か危険なものを感じて、杳を止めようとその光に手を伸ばしたが、電流のようなものを感じて弾かれた。


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