第5章
神を封じる者
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「分かっているよ、新堂くん。君は僕の側で機会をうかがっていただけ。杳くんは僕を封じようとしただけ。開はあみやを求めていただけ。結局、信じられるものなんてないじゃないか。そうだろう、杳くん」
それは絶望を思わせる声で、杳は首を振る。
「それはあんた自身のことじゃないか。オレはあんたに信じてもらおうなんて思ってないよ。あんたが信じなきゃいけないのは――」
声を出すだけでも至難の業だった。もう限界に近いのだろうか。汗が流れ落ちて、目の前がくらくらした。
ふと、眼前の光が失われた。
「杳っ」
胸が痛い。傷が痛むのだろうか。古い古い件の傷は、誰の手によるものか、すっかり癒えている筈なのに。
裏切ったのは自分。あの優しい瞳の人を――。
「もう終わりだ。ここまでにしよう。機会は与えた。答えられなかったのは君達の力量不足だ」
一際大きな光が生まれる。揚の手のひらのそれを中心に、彼の身体を取り巻く気の躍動。
「特に君は生かしておいてもろくなことにはならないようだしね」
言って、光が放たれた。周囲の空気が震撼する。
が、襲ってくると思っていた攻撃が来ないことに顔を上げると、杳の目の前に紗和の作り出した見えない壁があった。とっさに、結界を張ってくれたのだと知る。
「地人っ」
睨み据える揚に、紗和は防御壁を解くことはしなかった。
「杳だけは殺させません」
しかしその壁は揚の手が振り下ろされるだけで、巻き起こった気圧の波に簡単に四散した。それとともに、紗和は後方に吹き飛ばされて、部屋の壁に背を強かに打ち付ける。
「紗和っ」
立ち上がって、紗和に駆け寄ろうとする杳。その目の前に、揚が突然に現れる。
「まだ動く元気があるようだね」
揚は倒れそうになる杳の腕を捕まえる。
「はな…せ…っ」
しかし、抵抗できるだけの力は残っていなかった。
揚はそんな杳を冷めた目で見下ろす。こんなにも弱々しい存在に何があるというのだろうか。いや、何もありはしない。人間など死してしかるべきなのだと心の奥で呟く。
「愚かな。こんな人間一人の為に、僕の命に背き、消滅する道を選ぶなど。地人、君はもう少し賢いと思っていたがね。残念だ」
「杳を放してください」
紗和は何とか立ち上がる。ダメージが大きかったのだろうか、傷ついた身体を修復するのも間に合わないまま、足元がおぼつかない様子だった。それをあざ笑うかのように、再び繰り出される光の球。
紗和は避けることもできずに、慌てて張ったバリアごと吹き飛ばされる。
「紗和っ」
揚の腕の中でもがくが、揚は放してくれなかった。
「この子がいなくなれば、君達は寄り所を失うかい?」