第5章
神を封じる者
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光玉が背後から飛んで来たのだった。
振り返ったそこに立っていたのは揚だった。
彼が杳を面白そうに見やる目には、しかし厳しい色を浮かべていた。
「人間にしては妙な技を使うと思っていたら、封印師だったのか、杳くん」
「気づくの、遅くない?」
杳はそんな揚にひるむ様子も見せずに、それどころか相手を挑発するかのような口調だった。
「で、僕を封じる気かい? その身体で」
答える代わりに杳は口の中で呪文を唱える。
このあみやの身が知っている、古代の呪文。
が、それに気づき、揚は杳に向けて光玉を再び投げる。それを察知して、寸でのところで避ける杳。
「ぼやぼやしていると丸焦げになるよ。呪文を唱えている間もないんじゃないかい?」
軽く口角を吊り上げて、揚は第三弾第四弾と光玉を繰り出す。それを何とかくぐり抜ける杳であったが、しかしすぐに息が上がった。
巫女の身は、思っていた以上に鈍っていた。
「杳くん、君はどこまでも僕に逆らう気のようだね? 残念だよ」
舌打ちし、杳はあみやの胸の奥が熱くなるのを感じた。それが、勾玉であると感じた。杳の身体に宿っていたものは、杳の意識と一緒にあみやの身体に移っていたのだった。それがどういう意味を持つのか。
勾玉は父竜を封じる為に作られたものではないと聞かされた。母女が不遇の娘へ残した、たった一粒の涙なのだ。だから、形を失った今、とても熱い思いへと変わっていた。
母女の思い、悲しみ、そして――。
「揚さん、もう一度だけ聞いていい?」
杳は胸に手を当てて、揚を見上げる。
「母女は本当に父竜を裏切っていたの?」
再び問われる内容に、揚は眉を寄せる。
「心は父竜とともにあっんだと、最期までそうだったのだと、思うよ」
「うるさいっ!」
光玉が、杳の頬をかすめる。長い黒髪がわずかに切り取られる。
「お前に何が分かるかっ! 私は、愛していた、彼女を…多分、今でも…。だから、許せない。裏切りは許さない」
「何が裏切り? 綺羅が生まれたこと?」
「それ以外に何がある!?」
その答えに、ひどく悲しい思いが広がる。どうしてだか、泣きたいくらいに。
「だったら、このあみやも大した裏切り者だよね」
自分の悲しみから逃げる事だけを考えて、後に残る者のことを考えなかった。その結果が、何を生み出したのか。
「でも、オレはもう彼らを裏切らない。自分の罪は自分で償うよ。だけど、生まれてきたことが罪だなんて、絶対に思わない」
それは、自分への誓い。揺るがない気持ちへの向けての。