第5章
神を封じる者
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見つめる手のひらは、杳のものよりも小さい。しかし、身体の奥から強い力を感じた。懐かしいような、恐ろしいような力だった。
「さてと。ぼやぼやしてられない。とっとと父竜を封印してこなくっちゃ」
そう言って寝台から立ち上がろうとする。と、目眩を感じて平衡感覚を失う。その身体を慌てて支えてくれたのは茅晶だった。
「杳くん?」
「大丈夫。ちょっと慣れてないだけだから」
それもすぐに馴染むだろう。何てことはないのだ。かつての身体なのだから、何も気にすることもないのだ。
そう自分に言い聞かせる杳。
「お前、封印師か?」
驚いたように見る開に、杳は自嘲気味に返す。
「この身体で効くかどうか、あまり自信ないけどね」
「ばかなっ!」
開は杳に近づく。
「伝説の綺羅ですら勾玉を使って父竜を封じたと言うのに、お前に何ができる?」
「勾玉の効果はまだ残ってるから」
黄玉は失われたが、他の4つはまだ封印としての力を残している。それによって半分封じられている父竜を相手にするなら、力及ばないこともなかろう。
「護符は?」
自分の力の他に、護符として使う何かがなくてはならない。術だけで父竜を封じることなど不可能だと思われた。
開の問いに杳は薄く笑みを浮かべただけで答えなかった。ちらりと、自分の元の姿を見下ろす。
「変な気分。器はふたつも要らないよね」
その言葉が、本来の身体を見捨てるものだと茅晶は気づいた。
「杳くん、身体をどうする気よ?」
「もう戻れないよ」
それは余りにもそっけなくて。
「父竜にいたずらされない程度に処分しておいてよ」
その言葉が本心だなんて思えなかった。
「どうして…分からないわよ。杳くん、あなたこの戦いに関係ないのよ? 竜達の勝手な争いなのよ。それなのに、何故? どうして?」
2年前もそうだった。竜王と竜神達の戦いに自分から首を突っ込んでいったのだ。巻き込んだ原因の一端を自分が担っていることもあって、余計に辛かった。
しかし杳は茅晶に黙って背を向ける。
そして部屋から出ようと、ドアに手をかける。
途端、何かに気づいたようにその場から飛びのいた。
次の瞬間、開こうとしたドアが吹き飛んだ。
「なに?」