第5章
神を封じる者
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「…!」

 声が聞こえたような気がした。

 立ち止まる寛也に、佐渡も同じように立ち止まって振り返る。

「どうした?」

 ここは既に敷地の中だった。

 申し訳程度に立っていた門番は、佐渡の素性を聞いてすんなり門をくぐらせてくれた。彼らはただの泥棒避けなのだと、佐渡は思った。

「何か、呼ばれた気がした」
「はあ?」

 眉をしかめる佐渡。耳をすましても、聞こえてくるのは遠くからのふくろうの声だけだった。ここは都会の喧噪のひとつも聞こえない。

「空耳だろ。それとも、杳の助けを呼ぶ声でも聞こえたか?」

 冗談交じりの佐渡の言葉に、寛也は顔色を変える。

 いつだったか、以前にもこんなことがなかっただろうか。杳が助けを求めている時に、自分も杳の声を聞いた気がしたのだ。

 翔ならまだしも、自分にそんな能力があるとは思えなかった。ただの幻聴かも知れない。

「杳の声…」

 それが聞こえたと思われる方向に目を向ける。

 そこに、いる気がした。

「おい、結崎」

 足が自然に向いていた。


   * * *


 空間が原色を混ぜ合わせたように、歪んで見えた。その瞬間だけ次元が変わったのだと気づいた時には、もう全てが終わっていた。

「どうなったの?」

 次第に正常に戻っていった茅晶の視界に映ったのは、床に倒れている杳の姿だった。そして、ゆっくり起き上がる少女。

「杳くん…?」

 恐る恐る近づいて、床に横たわる杳に触れようとした時、声が聞こえた。

「オレはこっちだよ」

 少女の声に顔をあげると、あみやが見下ろしていた。

「…杳くん…なの?」

 少女に声をかける。帰ってきた答えはそっけなかった。

「それ以外の誰だって?」

 本人だと、分かった。何てことかと、目を覆いたかった。

「何を考えてるのよ、あなたはっ! こんなことして許されると思ってるの? 早くあみやの身体から出なさいよ」
「ムリだよ」

 怒鳴る茅晶に、あみや――杳は淡々と返す。

「こっちの身体の方が『引く力』が強い。それだけ竜族に近いってことだから」


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