第5章
神を封じる者
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あみやを安置している部屋には鍵がかかっていなかった。見張りもいないその処遇を鼻白んだが、どうせ敵の本拠地なのだ。警戒しても変わらないと、杳は平然と部屋に入った。
そこに、求める身体があった。
ベッドの上で、静かに眠っているように見えた。まるで冬眠でもしているかのように、呼吸も鼓動も非常に緩やかだった。
「今度こそ空っぽみたいだな」
先に出会った時には開が中に入っていたと言う。父竜の術によるもだったのだろうか。しかし今は、あみやの中には何の気配も感じられなかった。
生きているだけの身体。まるで植物人間そのもののようだった。
「どうする気だ?」
問う開に答えず、杳はゆっくりあみやに近づいていく。その間に割って入る茅晶。
「あなたになんか、そんなことできる訳ないでしょ。やめなさい」
「どいてよ」
低く言う杳を睨む茅晶。
「だめよ。杳くん、あみやを召喚するって、自分が入る気でしょ?」
考えていなかったのか、開が驚いて振り返るのが目の端に見えた。
「…だから、どいてよ」
杳は茅晶を押しのけようとするが、茅晶は頑として譲らなかった。
「だめよ、だめ。あなたの魂は私にくれるって言ったじゃない」
あの約束は嘘だと自分で言っておきながら、茅晶はそれでも杳を止めたかった。
あみやを蘇らせると言うことは、つまり杳の魂を抜き取ると言うことなのだ。もしそれをすれば、杳がどうなるのか。
もう、竜達の犠牲になどなって欲しくなかった。
「あげるよ、オレの役目が終わったら」
そう静かに言ってから、杳は茅晶を突き飛ばした。相手が女の子であっても容赦がないのは杳の常。茅晶はバランスを崩して尻餅をついた。
「杳くんっ」
杳はあみやに近づき、恐る恐る手を触れようとする。が、寸前で戸惑いが生まれる。
こんなことをすれば、この自分の身がどうなるのか分からないのだ。今の病弱な身体を支えているのが自分の気力なのだとしたら、あみやに乗り移ることでその命綱を断ってしまうことになるかも知れない。
未練は、山ほどあった。
だけど、だけど、守りたいものがあった。
――ゴメンね、ヒロ。
呟いて、杳はあみやの手を取った。
竜の身に近い肉体は、杳が思っていたよりずっと、引く力が強かった。
一瞬激しい目眩を感じたかと思ったら、全ての景色が失われた。
* * *