第5章
神を封じる者
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「多分、騙されているのは知ってるんだ。だけど、それでも俺は…」
「そう言えば、あんた誰?」

 今更気づいたように開に声をかける杳に、開は力が抜けそうだった。その横で、茅晶が呆れたよな口調で教えてくれた。

「あなたの大学の先輩らしいわよ。父竜の手下の一人らしいけど」

 杳は開をうさん臭そうに見やる。揚の手下の一人と言うことは、自分達にとってみれば敵である。咄嗟に、警戒の色を濃くする。

 その杳に、開は少しだけ肩をすくめて自己紹介をした。

「俺は名代開。多分、言っても分からないと思うが、前世ってのがあってさ、名は『ゆの』。これでも神子の一族なんだぜ」

 その言葉に、杳は目を見開く。

 ゆのは、あみやの兄である。神子としての力を強く持つ妹にその座を譲って宮を出たのだ。

 それでも、驚いた顔は一瞬だけだった。すぐに表情を戻す杳に、開は不審そうな目を向けた。

「って言うこと。あみや縁の二人であみや復活をってわけ」

 茅晶の説明に、杳はきっと開を睨む。

「この前あみやの身体に入っていたの、あんた?」
「あ…ああ」
「じゃあ、どうしてその時、父竜を封じなかったんだよ? そんなだから、神官の座を追われることになったんだ」

 杳の言葉に開はムッとした顔を向ける。言われる筋合いではないと。

「あみやを除く神子達は全員転生してるんだ。本当はあんたが連中を統べる立場じゃないか。なのにこんな所で敵に加担なんかしてんじゃないよ。直系はあんただろ。あみやじゃなくて」

 本当は、自分もそんなことを言える立場ではないと思いながら言う。

「お前、一体…」

 痛い所を突かれた開はそんなことを口走る杳にこそ、疑問を浮かべる。

「…今更言っても仕方ないか。それに、あんた責めても何にもならないし」

 結局は自分の責任なのだと思う。償いをしなければならないのは自分自身なのだ。杳は顔を上げて一点を見つめる。その先に感じるものがあった。

「あみやを蘇らせてやるよ、オレが」
「ちょっと杳くんっ」

 ハッとして、茅晶が杳の腕を掴む。考えていることが丸分かりだった。

「やめておきなさいよ。やっぱりあなた、関わらない方がいい」
「もう、遅いよ」

 言って、杳は茅晶の手を振り払う。

 こんなに近くにいるのに、後戻りなんてできないし、するつもりもなかった。


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