第5章
神を封じる者
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「ここは要塞?」

 どれだけ進んでも、広い家から出る道は見つからなかった。何かがおかしいと気づいて立ち止まる茅晶。

 その茅晶の背に開が声をかける。

「似たようなものだ。結界内だからな。出口なんてどこにもないよ」
「知ってて…」
「俺達の約束は勾玉だろ?」
「そうよ。それ以外に父竜の言いなりになるつもりはないの、私」
「裏切るとあみやもどうなるか分からないぞ」
「それとこれとは話が別よ。あみやと勾玉の件は取引だわ。だけど杳くんはこの件に関係ないわ」

 それまで黙ってついてきていた杳が顔を上げる。

「あみや?」

 はっとして茅晶は振り返る。

「ダメよ。あなたには関係ないわ」
「ちょっと待ってよ。まさかと思うけど、あみやと引き換えに勾玉を差し出すってことじゃないだろうな」
「関係ないって言ってるでしょっ」

 つい声が大きくなる茅晶に、開が叱咤する。こんな所を誰かに見つけられでもしたら、困ることになる。

「オレ、逃げない」

 杳は茅晶の手を振り払う。

「あみや、ここにいるんだろ? いいチャンスじゃない」
「まさか、また変なこと…」

 前回もあみやのいた洞窟で大怪我をした。その前にも、竜達の戦いに巻き込まれていた。どちらも運よく助かったが、寸でのところで命を落とすところだったのだ。これ以上、巻き込ませたくなかった。

「変なことじゃないよ。あみやは封印師だろ。父竜を封じることができるのは、あみやの力しかないんだ」
「だったら、協力しろよ。勾玉を差し出せば、明日香があみやを召還する。そう約束した」
「あみやを召還…?」

 その奇麗な眉をしかめる杳に、茅晶はちらりと開を睨んでから説明する。

「彼はあみやが転生していると思っているの。その魂を呼び寄せるつもりらしいわ」

 それこそ、信じられないことだった。

 勾玉をいくら破壊しても、自分を封じる力を持つ巫女を蘇らせると言うことは、また同じように封印される恐れがあるのだ。

「父竜がそんなことするもんか。あんた達、騙されてるんだよ。それに、あみやを召喚なんてできない」

 しかし、もしそれが可能なのだとしたら、杳にとっては願ったりかなったりだった。あみやの身体を探しに出たのも、それが目的だったのだから。

 綺羅に最も近い血を持つあみやの身体は、この世で最も有力な巫女なのだから。


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