第5章
神を封じる者
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茅晶が連れて行かれたのは、カギのかかったドアの前だった。それを睨み上げる。
そこから感じる気配は、揚から感じたものと同じだった。杳がこの中にいるのだ。
「何てこと」
「アイツ、好き者だからな」
その言葉に茅晶は開を睨みつける。
「人質なんて取らなくても、この状況で父竜の勝ちは決まってるのに、何を考えてるの?」
真剣な顔の茅晶に、開はさらりと言う。
「遊びだろ」
「遊びーっ? これだから男って!!」
思わず開の胸倉を掴み上げる茅晶。
「おいおい、俺に怒るなよ。やったのは父竜だ」
「どっちでもいいわ。とにかく、ここを開けなさいよ」
「俺が? できる訳ないよ」
鍵は揚が持っているのだろう。自分には手が届かない所である。そんな開に茅晶は見切りをつけたように、開を突き飛ばす。
「役にたたないわねっ」
一言言って、茅晶は右手を振り上げた。その少女の華奢な手が、ごつく節くれだった手に変化していく様に、開の目が釘付けになった。
それは、鬼の手だった。爪は人の身を簡単に引き裂く程に鋭かった。何をどうしたら転生した身でこんな技ができるものだろうか。
驚く開を背に、茅晶はその手を斜めに振り下ろした。
ギリギリと耳をつんざくような音とともに、そこにあったドアが引き裂かれた。
「な…!」
父竜の側にいるのにこんな程度で驚くなど、茅晶には彼の度量が計れた気がした。
そして、ドアの向こうにいた杳と目が合った。
何をするともなくベッドの上で、何事が起きたのかと呆然とする杳に、茅晶は怒声を飛ばす。
「何てザマなの? 何とか言ったらどう?」
「あ…ばか力…」
「言いたいことはそれだけっ!?」
思わず鬼の手の爪を立てる茅晶。
「うそ。冗談だってば」
「あなた、何やってるのよ?」
「そっちこそ、あみやを取り返すんじゃなかった?」
お互い、こんな所で出くわすなど露も思っていなかったのだ。
「どうでもいいけど、早くしないと誰か来るぞ」
「そうね」
頷いて、茅晶は杳の手を取る。
「杳くんは私のものなの。あんなヘンタイの手に渡す為に野放しにしてるわけじゃないわ。行くわよ」
言って、ぐいっと杳の手を引く。
一瞬、複雑な色を見せてから、杳は何も言わずに従った。
* * *