第5章
神を封じる者
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 揚はあみやを蘇らせると約束した。その代わりに勾玉を手に入れなければならない。

 茅晶は縄を解かれてから、取り敢えずどうしたものかと思案にくれていた。

 それとともに、気になることがあった。揚の身から、わずかだが残り香を感じたのだ。あれは間違いなく杳のものだと思った。杳がここにいるのだとしたら、危険極まりない。

 どうしたものかとしばらく悩んでいると、部屋に入ってくる者がいた。

「作戦はまとまったか?」

 先程、父竜である揚と一緒に茅晶を訪ねてきた男――名代開だった。揚は彼を自分の後輩だと紹介した。

 その彼が、あみやの招魂をすると言った途端、目の色が変わったのを茅晶は見逃さなかった。

「あなたには関係ないでしょ」

 茅晶は返して、ぷいっとそっぽを向く。

「何だ。せっかく手助けしてやろうと思っていたのに」

 その言葉に茅晶はうさん臭そうに顔を向ける。

「あなたに何ができるって言うのよ」
「できるぜ。勾玉があれば、竜を封じる術(すべ)を知っている」
「!?」

 驚く茅晶に、開は蔑んだような目を向ける。

「俺も竜王の宮の神子だった。あみやが生まれるまでな」
「どういう…」

 言いかけて、茅晶はハッとする。確か、あみやの前の神子は兄であったと聞いたことがある。死んで代替わりをすることは多いが、彼は自ら宮を出ていったのだと言う。

 その後の消息は知られていなかったが。

「ま、あみやに縁(ゆかり)の者だ。だから、お前に協力してやろうと言っている」

 茅晶はそう言った開を睨むように見やる。

 あながち嘘をついているようにも見えない。少々尊大な態度で鼻持ちならない印象を受けるが、彼を利用するのは良い手かも知れないと思った。何分にも、勾玉を手に入れるにしても、妖の者である自分には持つことすらできないだろう。

 ただ、気になるのは、開の持つ気が神子の物ではないような気がすることだった。神子と言うよりも、どちらかと言うと自分に近しい者――妖の者のような気がした。

「俺もあみやを蘇らせたい。大切な妹だからな」
「そう、いいわ」

 茅晶は開を睨んだまま、そう返した。

 利用できるものは利用するに越したことはないから。

「とは言っても、勾玉は竜の結界の中に保護されているらしいんだけどね」

 茅晶は先日、杳達に出会った時に聞かされた話を思い出す。

 杳と一緒にいたのは、当時の巫女の転生者ひとりだった。他にも3人の巫女が竜の結界の中に匿われているらしかった。その結界の中に入れるのは、竜達と人間だけだ。

「じゃあ、何とか潜り込むしかないだろう」
「どうやって?」
「竜の宮の巫女ですって言って、保護を求めるのが最短だろうな」
「バレるわよ、そんなのすぐに」

 軽い口調の開に、茅晶は呆れて返す。

「巫女は神聖な身よ。私達が持っている妖気とは掛け離れているわ。そんなことに竜王が気づかないと思ってるの?」
「じゃあ、人質を使うか…」
「人質?」
「父竜が、竜達の思い人を確保している。奴を使おう」
「思い人って…まさか」

 思い当たる節に茅晶は息を飲む。その茅晶に、開は薄く笑みを浮かべた。


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