第5章
神を封じる者
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「心を落ち着かせて、呼吸を整える。怒りを静める時と同じだ」
「怒り…?」

 言われて、寛也は深呼吸をする。落ち着け落ち着けと、心の中で唱えながら。しかし、心の中を静かにすればするだけ怒りが増してくるようだった。

「ま、こんな初歩的なことができないのは鎖鉄も同じだからな。お前の特性だろう。気にするな」

 どうにもうまく行かない寛也に、優は諦めたように言う。

 腰に手を当てて、やれやれとため息をつく佐渡。ここまで来たのにどうしてくれようかと。

 その佐渡を横目に、優はまだ何とか頑張ろうとする寛也の肩を叩く。

「短時間なら俺にもお前を封じてやれるが、どうする?」

 えっと振り向く寛也。

 封じると言うことは、寛也の竜の力自体を押さえ込むことだ。つまり丸腰と同じなのだ。かつて潤也に術で封じてもらったことがあるが、その時はまるっきり人間のままの力しか出せなくて、配下クラスの獣神に寸でのところでやられるところだったのだ。

「どうせ父竜の力にはかなわないんだ。今更怖じけづくな」
「誰が…っ」

 寛也は怒鳴って気を膨らませる。それを優は苦笑して見せる。

「だったらおとなしくしろ、このガキが」

 ムッとして、再び膨れあがろうとする寛也の気。それを光が包んだのは一瞬だった。

 少しだけ違和感を感じて、寛也はすぐに自分の手を見つめる。

「お前の力は俺のはるか上だ。お前が竜体になろうとすれば、あっと言う間に術は解ける。だが、それまでは普通の人間程度にしか見られないだろう。ヤツに一泡吹かせてやってこい」

 そう言って、寛也の背を思いっきり叩く。

「って、お前は?」

 今の口ぶりから、優が同行しないことを感じて尋ねる。優は目を逸らしたままで答えた。

「俺は俺にできることをする。ワンパタだけどな」

 何度かその術を使って人身被害を未然に防いだことは知っていた。父竜の本拠地が都内にあるかも知れないと聞いた翔が優を寛也に同行させた理由はこの二つかと、寛也は初めて知った。

「分かった。アジトの近くだからな。お前も油断するなよ」
「そっちもな」

 そう言って、互いに背を向けた。

 寛也の見やる先には、巨大な気が見えていた。


   * * *


 


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