第5章
神を封じる者
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「俺は杳を助け出すことができたらそれでいい。他には何も望まねぇよ」
「お前、本当に分かってるのか? アイツ、もう長くねぇんだろ?」
佐渡の言葉に驚いた顔をする優。それを無視して続ける。
「ここでお前が突っ込んで行ってやられたら被害甚大じゃねぇか? 俺が行ってやるよ」
今度は寛也が驚いて佐渡を見る。
「俺なら全然怪しまれねぇしな」
「いや、俺が行く。お前は手引きさえしてくれたらいい」
ここへ来て思った。
杳がたとえ誰を思っていようとも関係ないのだ。自分が約束したのだから。何があっても、杳を守ると。たとえこの命が尽きたとしても。
「杳は俺が助け出す。それだけは誰にも譲れねぇよ」
唇を引き結んで睨むように見てくる寛也に、佐渡はやれやれと肩をすぼめる。
「なら、せめてその殺気だけは何とかしろ。これじゃ、どこにいても敵にバレバレだ」
言われて、寛也は始めて気づいたように自分の身を振り返った。
* * *
海の見渡せる高台に建つ佐渡の家の庭。
使用人も多いだろうから、ここでは竜になれないのでどこか目立たない空き地から飛び立とうと言うと、佐渡は、家の者の大半は自分の配下だと軽く言った。
「そう言えばお前、父竜の居場所、知らねぇんじゃなかったか?」
情報だけでも手に入ればと思って出向いたのだったが、道案内をしてくれると言う佐渡に、寛也はかつて聞かされたことを思い出す。向こうは佐渡の居場所を知っているが、佐渡の方からは連絡が取れないのだと。
「お前らが出没したからだろう。コンタクトがあった。朱雀も死んだからな、手下が不足してるから来いって」
「な…!」
寛也はギョッとする。もしかして父竜はこの地へも訪れていたのかと。
「それでお前…」
「就職はそっちにしてやるから、それまで待てって言ってやった。そしたら良い職を用意してやるってよ。お笑いだよな、人界滅亡なんて言ってる奴がよ」
笑いながら言う佐渡。
「その時に聞き出してやった。ヤツの携帯と住所と名前」
抜け目がないと、寛也は改めて思った。
「じゃあ行こうぜ。遅れずについて来いよ」
言って佐渡は翼を広げた。
杳に施された封印はもうとっくに解かれていたが、青雀の姿を見るのはそれ以来久しぶりだった。
暗闇に青く溶け込む翼は、竜族の中でも最年少の炎竜よりも小さかった。それでも、その力は大抵の竜をしのぐ。
父竜の右足を砕いて生まれた彼は、父竜の強靭な爪を持つ者だった。
天へ舞い上がった佐渡に続いて、寛也、優の順で天空へと駆け上がった。
春の薄く煙る星空を背に、一同は進路を東へと取った。