第5章
神を封じる者
-3-

6/8


 渋ると思っていた優は、寛也の言葉にあっさりとOKをくれた。それが、従弟の浅葱が世話になった相手だと聞かされたこともあるが、自分の力を必要としている相手には、背を向けないのが信条なのだろう。

 寛也達がまず目指したのは、高校時代の同級生の家だった。

 佐渡亮(さわたりりょう)――父竜の左足を砕いて生まれたと言う左鳳凰、青雀である。

「大丈夫なのか? そんな奴」

 佐渡の家は、海の見える高台に建つ豪邸だった。その応接間まで通された今更になって、違った意味で後込みしそうになる寛也に、優は聞いた。

 杳を挟んでのライバルであり、敵の使者である佐渡は、今やすっかりこちら側についていた。

 それでも自分の存在は父竜に知られているからと、表立っては仲間に加わっていなかったのだが。

 それにどちらかと言うと、仲間と言うよりも単に杳に言い寄っているだけに近かったのだ。

「よく分かんねぇけど、杳を助け出す為なら手を貸してくれる奴だ」
「…成る程な」

 優は杳の奇麗な顔立ちを思い出して、何となく納得する。

 そこへ久しぶりの顔が現れた。日常では会いたくなかったので、高校の卒業式以来の再会だった。

「何だ、結崎と二人連れって言うから、杳かと思ったら違うじゃねぇか」

 部屋に入ってくるなり、そこにいた二人を見やって、佐渡はあからさまに眉をしかめた。

「その杳が父竜にさらわれたんだ。手を貸せ、佐渡」

 寛也が立ち上がって言う言葉は、どう聞いても命令口調だった。しかしその内容に、佐渡の表情が一変した。

「何で…お前ら最強メンバーが揃ってて、杳ひとりも守れねぇのかよ?」

 寛也にズカズカ近づいてその胸倉を掴み上げるのを、寛也は思いっきり引きはがす。

「俺に自覚が足りねぇっては分かってる。その度にアイツを傷つけてることも」
「分かってるならもっと…」
「だから頼みに来た。手を貸してくれ。杳を助けたい。頼む」

 言って、寛也は佐渡に頭を下げた。

 杳にひどいこともたくさんして、傷つけようとした相手である。なあなあになった今でも許せない相手である佐渡に頭を下げるなんて、死んでしたくなかった。しかし、それ以上に杳を助けたい気持ちが強かった。

 寛也にとって一番大切なのは、自分のプライドでも何でもなく、たった一人の人だったから。

「おまえ…」

 そんな寛也に、大きくため息をつく佐渡。

「手伝ってやる代わりに、杳を俺によこせ」

 はっとして顔を上げる寛也に、佐渡はニヤリと笑って見せる。

「交換条件だ。アイツが無事ならお前は何の文句もねぇだろ?」
「それは…」


<< 目次 >>