第5章
神を封じる者
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「ここで助け出したら、ポイント高いと思わねぇ? アイツ、口ばっか強いくせに、本当は自分を守ってくれる奴に弱いんだと思うよ。そーいうトコ、可愛いよなぁ」
露の言葉にドキリとする。どうしてこんなに杳のことに詳しいのかと。まさか本当に本気などと言うことはないだろう。
そう思いかけて、寛也は首を振る。
「好きにしろ」
言って、ゴロリと寝転がろうとして、また背中を蹴られた。
「おまえなぁ」
もう一度立ち上がって、またその胸倉を掴み上げる。それなのに、露は抵抗する気もないのか、平然と、かつ尊大に言った。
「やっぱ結崎もついてこい。お前が父竜の足止めしてる間に、オレがお姫様を助け出してやるから」
「ふざけてんじゃねぇ」
寛也は露を突き飛ばす。
「父竜になんか俺一人で太刀打ちできるかっ。竜王ですら適わねぇってのに」
「じゃお前、杳が奴に殺されてもいいっての?」
「!?」
「杳は竜王の宮の巫女、あみやなんだろ? 竜族を封じる力を持つ奴を父竜がさらってどうするかなんて、先は見えてるじゃないか」
その通りなのだ。本来なら何を置いても杳を助けに行かなければならないのだ。が、それができずに手をこまねいている自分。
「なあ、杳はあみやの身体に自分の魂を移してでも、父竜を封じようと思ったらしいよ。自分の身体を捨てることになっても」
露の言葉に、寛也は驚いて顔を上げる。
「オレ達みたいに強い力を持つでもない杳が、そこまで覚悟して身体はってんのに、何でみんな動かないのかオレには理解できない。お前らそろって杳にホレてんじゃねぇの?」
しかし杳は自分を待っている訳ではない。杳は――。
「あーもういい。それならオレ一人で行く。お前、ここで寝転がってろ。何千年経っても、成竜になっても、お前、サイテーの野郎だ、戦」
これだけ言っても聞き分けない寛也に、露は背を向ける。本気で怒った様子だった。
露はそのまま出て行こうとして、つと、思い止どまって振り返る。
「お前、気づいてなかったようだけど、最期まで綺羅はお前のこと、思ってたんだからな」
それだけ言って、露はピシャリと障子を閉めた。
大股でわざと足音を響かせて歩く露。その足音が次第に遠くなるのを聞きながら、寛也は握り拳を握りしめる。
「綺羅…杳…」
――守ってくれる? みんなのこと忘れても、オレのこと守ってくれる?
ふと、杳の言葉を思い出す。
いつだったか、もう随分経ったような気がする。
不安そうな瞳が見上げてきていた。
あの日から、杳を思い続けてきた。何があっても。杳が寛也のことを忘れても。
そう、約束したのだ。杳に。
「俺は…」
ギュッと握った拳を見つめて、寛也は顔を上げた。
* * *