第5章
神を封じる者
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「おーい、結崎、いるかー?」
返事も待たずに、いきなり襖を開けて寛也の部屋に入って来たのは露だった。
結局のところ相手の出方をしばらく待とうと言う話でまとまり、その場は解散になった。
遅い夕飯が済み、それぞれ順番に風呂へ入るのを待っている間に、寛也は自室に引き上げたのだった。
何をするともなく、寛也は逸る気持ちを何とか押さえていた。
本心では今すぐにでも駆けつけていって、杳を助け出したい。翔のように悠長に待っているなんてできないと思うのだが、思うままにできないでいた。
杳の気持ちが自分に向いていないのだとしたら、杳が待っているのは自分ではない。そう考える胸の奥が、痛くなるのを感じるばかりだった。
うつむいてそんなことを思う寛也に、露は元気な声をかける。
「なに一人で引きこもってんだ? あっちでみんなテレビ見てるぞ。行かねぇ?」
結局、電源と一緒にアンテナを引っ張って、テレビは映るようになった。寛也達が宮崎に出掛けている間に、潤也があっと言う間に片付けてくれたそうである。
「そんな気分じゃねぇよ」
言って寛也は露に背を向ける。その背中をいきなり蹴り上げられた。
「ってぇなっ、何すんだっ」
寛也は反射的に振り返って、立ち上がる。睨む相手は、呆れたような顔で寛也を見やっていた。
「お前、分かりやす過ぎだ」
「何が?」
「杳のこと。心配で心配で仕方ないって面」
指をさされて指摘され、ムッとするが、言い当てられていたので言い返せなかった。
黙ってしまう寛也に、露は変わらない口調で言う。
「行けばいいんじゃねーの? 助けに」
「うるせぇ」
何も知らないくせにと、寛也は露に背を向ける。と、今度は後頭部を叩かれた。
「お前なぁ、いい加減にしろよっ」
思わず胸倉を掴んでしまう寛也。
「結崎、素直じゃないからオレが後押ししてやろうって言ってんのに。杳、待ってると思うよ」
「何言ってんだ。アイツが待ってるのは俺なんかじゃねぇよ。アイツは…」
多分、自分でなくても良いのだ。翔でも、潤也でも、きっとこの露でも。
そんな風に考えてしまう自分が、何てつまらない人間なのかと思ってしまう。
以前には、もっと自信があって何事にもひるむことを知らなかったと言うのに。
「そうなんだ? やっぱお前ら、何でもない訳なんだ? だったらオレ、本気になろうかなぁ」
チラリと寛也を伺い見る露は、明かに挑発しているのだと分かった。