第5章
神を封じる者
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別室に、かの少女は寝かされていた。
見まごうこともなき、少女の姿だった。
「どうだい、何千年かぶりにご対面した感想は」
揚の軽い口調が耳に届くが、紗和はその内容を聞き取ることができなかった。
身体が震えてきた。こんなことがあるのだろうか。これが自分の施した封印によるものなのか。
「正確に言うと、2年前、君の封印が解かれた後、僕が封じた。そのうち役に立ってくれると思ってね。どうだい、昔の可憐な少女のままだろう? 人もこうすれば長持ちするものなのか」
はっとして、揚を見やる。本気でやりかねないこの男を、紗和は睨む。
「そう怖い顔をしないでくれよ。これを残したのは君自身なんだろう?」
その通りなのだ。あみやをこの姿のまま止めたのが罪だと言うのなら、その罪は全て自分にあるのだ。
「あみやを、何に悪用しようって言うんですか?」
「言っただろう。招魂を行う」
揚の言葉にビクリとする紗和。
「何を戸惑っているんだ? 君はそれを望んであみやを残したんじゃないのかい? いつか再び生き返らせようと望んで」
「違う、僕は…!」
そんなことを望んだのではない。ただ、ただ、失いたくなかっただけなのだ。天竜王にとって大切だった少女は、自分にとってもかけがえのない存在だった。だから――。
「会ってみたいだろう、あみやに。とんだ悪霊になっているかも知れないがね」
言って、揚はくすくす笑う。まるで紗和の心情を見透かして楽しんでいるかのように。
「あみやは…生き返るんですか?」
「さあ。君の協力如何だよ」
まさに悪魔の囁きに聞こえた。いけないと思いつつ、気持ちが傾いていくのを止められない。果たして、自分も弱い生き物なのかも知れないと、心の隅で呟く。
「…あみやを…封印の巫女を生き返らせて、貴方はどうするつもりなんですか?」
「封印の巫女は僕を封印するだけが役目ではないだろう? 君達にも同じ効果がある」
揚の言葉に、いちいち驚かされる。
「とは言っても、綺羅ならまだしも、この娘程度の力で何ができるかなど知れているがね」
「でも、勾玉があれば…」
紗和に、揚も肯定する。
「そう。これであみやが連中につけば、互角と言っていいかも知れないね」
半分封じられたままの身である自分との戦いではと、揚は付け加える。
この男が一体何を考えているものなのか、紗和には分からなくなってしまった。
「戦いは面白くなくてはね」
始終、冗談めかしての口調のどこに本心があるものなのか。
いや、もしかしたら自分の絶対的な勝利を知っているのかも知れない。
多分、あみやがいても翔達に勝ち目はない。見せつけるつもりなのだろうか、自分との差を。そのうえで、相手を叩くつもりなのか。
本当に自分は、今、これをしてもいいのだろうか。会いたいと言う理由だけで、あみやを蘇らせても。
戸惑う紗和に揚の声。
「どうやら邪魔が来たようだ。隠れるぞ」
言うが早いか、紗和は揚に腕を掴まれ、引きずられるようにして隣の部屋へ入った。ドアの隙間から覗き見たそこに現れた人物を見て、紗和は覚悟を決めた。