第5章
神を封じる者
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「これは一体どういうこと!? 僕は杳には手を出すなって…」
「まあまあ、そう目くじらを立てなくてもいいじゃないか」

 あみやを蘇らせると約束した揚は、それを自分でするつもりもなく、紗和にでも命じようかと家へ呼び寄せた途端、杳が屋敷内にいることを知られてしまった。

「貴方は、裏切りは許さないと言ったじゃないですか。僕との約束は破ってもいいんですか?」

 客間に通して、コーヒーまで出してもてなしていると言うのに、紗和は揚をにらみつける。

 思ってもみなかった見幕に、揚はあっさりと降参した。

「悪かったよ」
「悪かったって…そんな簡単に」

 紗和は拍子抜けするとともに、自分との約束がそれ程重要視されていなかったことに失望すら感じる。

「早く杳を解放してください」

 ここに置いておいたら何に悪用されるか知れたものではない。それだけは避けたかった。

 が、揚は紗和の心中など考えもしないのか、さらりと返してくる。

「それはできない」
「どうしてっ?」
「人質にするつもりはない。ただ、連中を諦めさせたいんだ」

 揚の言葉に、紗和は眉をしかめる。

「人の心は移ろいやすいものさ。それがはっきりと分かれば、奴らも人を守るなどど言う愚かな考えを捨てて僕の元へ来るだろう」
「それと杳と何の関係があると言うんですか?」

 眉の根を寄せる紗和に、揚は面白そうに笑みを浮かべたまま。

「よっぽど気に入っているようじゃないか? 君も、天人も、あの人間を」

 言われて、紗和は思わず返す言葉を失う。

「彼さえいなければ、君達をここに繋ぎ止めるものはなくなる。そうじゃないかね?」
「まさかっ。僕にとっても、翔くんにとっても杳一人が人生の全てと言う訳じゃない。それ程圧倒的な位置にいる訳じゃありません」
「ならば何故、あみや一人を失っただけで天人はあれ程に荒(すさ)んだんだい?」

 その言葉に紗和は目を見張る。

「天人はそう言う奴なんだよ」
「貴方が…何故、封印されていた筈の貴方が、そのことを知っているんですか?」
「さあね」

 嫌な考えが浮かぶ。しかし、その揚の表情から、彼はそれ以上は言わないだろうことが知れた。

「とにかく。杳を利用しようと言うなら、僕にも考えがあります」

 紗和のことなど大して気にもしていない素振りの揚に、紗和はきっぱり言い渡す。

「杳を連れてここを出ます」
「新堂くん、そんな、実家に帰る嫁のようなことを言わなくても…」
「ふざけないでください」

 きっとこの人は紗和のことなど、どうでもいいのかも知れない。ふと、そう思った。

 紗和だけではなく、自分を取り巻く全てが彼にとって意味のないものなのかも知れない。

「分かった、分かった。杳君は君にあげよう。どちらにしても、僕好みの『改造』は無理みたいだからね。好きにするといい」

 何のことかと聞き返す前に、揚は続ける。

「それはそれとして、君の力を貸して欲しいことがあるんだが」
「何ですか?」

 また何か企みでもあるのかと見やる紗和に、揚は今度こそ呆れられるようなことを告げた。

「あみやの招魂をやってくれないか?」


   * * *



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