第5章
神を封じる者
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「君が言うのは天人のことだろう? 僕は違う」
「じゃ、何の為にあみやをさらったのよ?」

 睨む茅晶に、一拍置いて揚は答える。

「あみや自身を蘇らせる為に」

 その言葉に茅晶のみならず、側にいた辰己も開も同時に、驚いて揚を見やった。

 あみやはその昔父竜を封印した綺羅の末裔で、その勾玉を守る巫女だったのだ。あみやを蘇らせると言うことは、自分の身の危険をも意味する。

 驚く周囲をよそに、揚は僅かに笑みを浮かべる。

「会ってみたいだろう? かなえてあげようか」

 その言葉にはっとする茅晶。

「そんな手に乗ると思ってるの?」

 嘘だと思える内容に食いつく自分も浅ましいと思う。

「ま、これはお遊びみたいなものだ。天人達を少し苛めてみようと思ってね」

 多分、誰よりもあみやのことを思っているだろう天人――天竜王。しかし、彼は茅晶に、あみやの身体には興味がないと言い切ったのだ。それは、杳がいるからだと、茅晶にも分かっていた。自分が気づいたように、翔もそのことに気づいているのだ。

 だとしたら、あみやの身体は翔にとっては意味がないのだ。

 しかし、茅晶は別のことを危惧する。

 この、目の前にいる巨大な気を持つ竜達の父の身から、僅かに感じた気配があったのだ。それは、良く見知った者の。

 まさかと思いながら。

「条件は…?」

 もしそうなのだとしたら、これ程の悪条件はないと思った。竜達は一体何をしていたのか。一番に守らなければならない者を敵に奪われて。

 茅晶はそれと感づかれないように、相手の言葉に乗ることにした。

「竜達の持つ勾玉」

 やっぱりと思う。

「貴方を封じたと言う?」

 勾玉の一つが破壊されたと聞いた。残るものを要求しているのだ。

「本当はあみやと引き換えにとも考えたのだが、彼女の身体が連中の手に渡るとややこしまなるんでね。君なら彼らに与(くみ)したりはしないだろう?」

 どこまで自分のことを知っているのか分からない相手に、茅晶は頷いて見せる。

「本当にあみやを蘇らせることができるの?」
「この世に彼女の魂がまだ存在しているとしたらね。消滅でもしていたらどうしようもないが」
「分かったわ。だけど、あみやを蘇らせる方が先よ」

 茅晶の言葉に、揚は肩をすくめて見せる。

「どちらが先かは、僕が決めるものだと思うのだがね」

 言って、真意の見えない笑みを浮かべた。


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