第5章
神を封じる者
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気を失った杳をベッドに押し込めると、ドアには鍵をかけて、揚は部屋を出た。
部屋を出たところで、声をかけられた。
「わざわざ自ら出動だなんて、いやにご熱心じゃないですか」
振り返ると、大学の後輩の姿がそこにあった。名代開だ。
「出入りを許した覚えはないがね」
「でも、門番は入れてくれましたけど?」
口の端を吊り上げて言う開に、揚はやれやれとため息をつく。人間と付き合うのも面倒だと。
「それよりあの子、だれ?」
「…さあね…」
開の指し示すのは杳だったが、揚は肩をすくめて返す。
「ふん。まあいいですよ。それより、あの女のことだけど」
「女? ああ、あの鬼娘か」
昨夜、屋敷に侵入してきた少女を捕らえた。奇妙な気配に、それが妖の者であることを知った。大して力を持つモノではなかったが、天竜王の差し金かも知れないと、捕らえて閉じ込めていたのだった。
「あいつはどうやら俺と同じ立場のようですよ。どうしますか?」
開と同じ立場――つまり、あみやに近しい者である。自分に刃向かう者達が慈しんでいた少女、竜王の宮の巫女、あみやの。
「さてね」
そう言って、揚は笑った。その笑みは、どこか曇っていたが。
* * *
「あみやの身体をどうする気なのよっ!?」
声が廊下まで聞こえていた。ドアを開けると、いっそうけたたましくがなり立てる声に思わず閉口する。
「騒々しいな」
そう言って揚がジロリと睨むだけで、今まで怒鳴っていた少女――茅晶は口を閉ざした。
その表情に明かな畏怖の色を見つけて、揚は鼻先で笑ってみせる。
「さるぐつわでも噛ませましょうか?」
それまでてこずっていたのは、つい先日呼び寄せた闇竜――和泉辰巳(いずみたつき)だった。その彼には目も暮れず、揚は茅晶に近づく。
「ようやく、親玉登場ね」
表情に色がないにも関わらず、口調は尊大だった。妖の者なら、自分の気を感じない筈もないのにと、揚は相手の強がりにいささか敬意を表して口を開く。
「親玉って言うのも言いえて妙だがね」
近づく揚に、ふと茅晶は眉を寄せる。
「どうした?」
一瞬だけ強く睨んで、茅晶は言葉を発する。
「何でもないわ。それより、あみやをどうするつもりよ?」
「返して欲しいとでも言うのかい? 君が手にして、何とする?」
「貴方たち竜族には渡さないと言ってるのよ」
茅晶にしてみれば翔も揚も同じだった。あみやを傷つけた者は、同じ一族として同一視していた。
そんな茅晶に呆れるでもなく、揚は淡々と言う。