第5章
神を封じる者
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「抵抗すれば苦しいだけだ。さあ、力を抜いて。僕の気に身を委ねるんだ」
囁く揚の声に、ざわざわと背を這い登っていくものを感じる。拒絶感しかないのに、抗えない身体が口惜しい。
動けない杳の身体を揚はやわらかく抱きしめながら、シャツの裾から手を忍ばせてきた。直接肌に触れてくる揚の指先に、杳は身を強張らせる。
「君も感じてきたんじゃないかい? どうだい、僕の気は」
杳の胸をまさぐっていた揚の掌が、ゆっくりと下へと降りていく。竜気と同時に、杳の身体を直接的に攻めてくる揚。
「い…や…っ」
震えてくる身体。
嫌悪感と恐怖心とで、気が遠くなりそうだった。
その杳の耳に、くつくつと、揚の笑う声が聞こえる。
このまま揚にされるままになるくらいなら、いっそと思う気持ちが沸き起こる。逃げられるなら、どんなにか楽なことだろう。
しかし、このまま逃げたくはない気持ちの方が強かった。
終わりにしようと言ったのは自分の方だが、自分の気持ちを終わらせるつもりなどまるでない。ずっとずっと思い続けていくつもりだった。
そのささやかな気持ちを、踏みにじられるような気がした。この、絶大な力を持つ化け物に。
従う訳にはいなかいと、強い意志が沸き上がる。
心に思う人がいるから。
思い続ける人がいるから。
日に焼けた、明け透けな笑顔が目に浮かぶ。
――ヒロ…。
声に出さずに、そっと呟いた。
途端、全身が熱くなった。
内側から、何かが溶けていくような気がした。それが何なのか考える間もなく、眩しいばかりの光があふれ出した。
それとともに、揚の気配が自分から離れるのを感じた。
目の端で、揚が驚いたように杳を睨んでいるのが見えた。
「この力は…」
杳は息をつきながらゆっくり身を起こそうとするが、そこまでで意識が途切れた。
「…など有り得ない。何者だ? お前は…」
呟く揚の声が、遠く聞こえた。
* * *