第5章
神を封じる者
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「なるほど。天人も凪も、地人も手付かずって訳か。結構な入れ込みようだ」
その言葉の意味に、顔が熱くなる。
「ばっかじゃないのっ。あいつらとはそんな関係じゃないよっ」
「君はそのつもりでもね、彼らがどう思っているのか。…本当に気づいてないのかな?」
「うるさいっ!」
視線をそらす杳に、揚は大声を上げて笑い出す。
「これはいい。ならば連中に遠慮もない訳だ。君も…」
揚はそう言うと杳の腕を取り、そのままベッドに押し倒した。
「いたっ…何する…?」
抗議の声を上げるが、それは揚の唇に遮られた。いきなりのことに驚いて抵抗できない隙に、身動きが取れないように身体を押さえ付けられた。
「…や…っ」
揚の唇から逃れようとするが、顎を掴まれて動けなかった。
唇をこじ開けられ、揚の舌が口中に忍び込んできた。
ゾワリと、背筋を走る悪寒に、杳は気分が悪くなってくる。
生温い揚の舌の感触に気が遠くなりそうになって、思わず揚の舌を噛んだ。
「…つっ」
その痛みに、さすがの揚も顔を離した。途端、杳はその揚の頬を張る。
「このヘンタイ野郎っ!」
叫びながらも、涙目だった。睨む表情にもその強さはなかった。
そんな杳に向ける揚の顔が僅かに緩む。
「分かったよ。君が望まないなら、やめよう。ただし」
身体を起こし、ベッドから起き上がると、揚はハンカチを取り出して切った舌の血を拭う。思いっきり噛んだので、血も出よう。
「僕は君との甘い夜を望みたいんだ。それが適わない寂しい夜には、この国の町をひとつづつ破壊していこう」
冗談めいた口調で、本気の色をした目を向ける。
「な…あんた、バカじゃないの?」
「この血の代償は大きいよ」
冷たく笑う揚は、ぞっとする程の気をまとっていた。それだけで自然と身が震えるのを杳は感じた。
揚のまとうオーラは、翔達のものと比べてひどくくすんで見えた。濃いだけではない、内にあるものが汚れているような、杳にはそんな風に見えた。
揚はそのまま部屋に杳を置いて出て行こうとする。その背に、杳は震えを押さえて声をかけた。
「オレの身体が手に入っても、心までは手に入らないんだ。あんた、分かってんの?」
杳の言葉に、揚はドアノブにかけた手を止める。
「…そんなものは、いらない。手に入れても、いつか必ず裏切る人間の心など欲しくもないね」
「裏切る…?」