第5章
神を封じる者
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「どうしよう…杳さんがさらわれちゃうなんて」

 寛也達が潤也の知らせを受けて出て行った後、お勝手場はちょっとした騒ぎになっていた。

「いつかはこうなるんじゃないかと心配していんだけど、やっぱりか」

 落ち着かない様子の美奈に、妙に落ち着き払った口調なのは碧海。

「どーいう意味よっ?」
「だって、ここの陣営は杳さんハーレムなんだから、敵にとってはいいエサになるだろ?」
「あんたってぇっ!!」

 美奈はたまらず碧海の首を絞めにかかる。危うく絞め殺しかねない形相の美奈に、浅葱が仕方なく止めに入った。

「仲間割れしてどうするんだよ? それよりもこれからどうするか考えなきゃならないんだろ」
「そうね。問題は敵がどんな要求をしてくるかよね」

 百合子も思慮深い表情を浮かべる。

「一番可能性が高いのは、勾玉と交換ってことかな」

 前回、勾玉を求めて逃げ回った時に浅葱が敵に捕まった折りの相手の要求は、勾玉全部を差し出せというものだった。

 父竜の封印を完全に解く為には、それを手に入れて破壊するのが一番手っ取り早いのだ。

「ありそうね…」

 4人はお互いに顔を見合わせる。

「どう…する?」

 そうなったら。

「あの人、自分の意見と合わないことされると、果てしなく罵倒するよ、きっと」

 碧海が大きくため息をつきながら言う。

「でも、助ける方法を取るわよね」

 美奈が、きっぱり言う口調に、誰も異を唱える者はいなかった。

 勾玉を守ることよりも大切なものはある。そう教えたのは杳自身だから。

「決まりだね。僕達は杳さんを第一に考える。後から何を言われてもね、碧海」

 浅葱が碧海の肩をポンと叩くのを、嫌な顔をして返す碧海。

「何でオレ?」
「代表」

 見ると、全員がその役を碧海に押し付ける気が満々の様子だった。

 杳の怒られ役の代表になんてなりたくないと、心底思う碧海だった。


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