第5章
神を封じる者
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「んのやろー、許さねぇっ」
寛也は、握り拳で壁を思いっきり殴りつけた。
ここは杳の入院していた病院である。潤也からの連絡で飛んできたは、寛也と聖輝の二人だった。
水は癒しの力を持つ。その力をゆっくりと潤也に送りながら、聖輝は寛也の行動に眉の根を寄せた。
「どうでもいいが、壊すなよ」
聖輝の言葉に拳を収めたものの、寛也は苛立ちを押さえられなかった。
そんな寛也に、自らも傷を負った潤也はベッドの上からすまなさそうに頭を垂れる。
「ゴメン、僕がいながら…」
みすみす父竜――揚に杳を連れ去られてしまったのだった。力の差の大きさに一瞬でもひるんだ自分が口惜しかった。もう少し冷静に対処していれば、切り抜けられたかも知れないと、後悔の念にさいなまれる。
その潤也に容赦ない寛也の言葉が投げられる。
「お前も、もう少し用心しろよ」
杳をさらわれた上に潤也がこんな怪我をさせられて、本当は、寛也は怒りが吹き出しそうだった。それでも潤也が無事で良かったと思う。下手をすれば殺されかねなかったのだ。
「単独行動は控えろと、最初に言った天竜王の言葉が正しかったな」
まさかこんな所で鉢合わせするとは、誰も思っていなかったのだ。しかし、よくよく考えると、知られていないとは言え、杳は勾玉の巫女の一人なのだから、かなり用心するべきだったのだ。
ましてや、父竜の最も嫌う綺羅の転生者なのだから。
分かっていたのに用心が足りなかったのは、明かに自分達の失策だった。
「それにしても、アイツは何を考えているのか」
聖輝の言う「アイツ」とは翔のことだった。
諌める者がいないので、すぐにでも飛び出して行くかと思った翔が、今回は何故か落ち着いていた。黙って部屋に閉じこもってしまったのだが、何を思うものなのだろうか。
「結局、僕達はいつも杳を巻き込んでばかりだ。巻き込んで、危ない目に遇わせてばかりで」
「あいつの場合は、どちらかと言うと自分から首を突っ込んで行っているような気もするがな」
聖輝の言葉に、潤也は苦笑する。
「どっちにしても、このままじゃ済ませねぇ」
また拳を握る寛也に、聖輝が低く声をかける。
「逸るなよ。機を失うことになりかねないからな」
聖輝の言葉に舌打ちして、寛也は顔を背けた。
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