第4章
竜の血筋
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「だが、残念だったね。封じられるのは天人達の方だ。あみやが僕の側にいる限りはね」
「あの中に入っているのはあみやじゃないだろ。誰だか知らないけど、勾玉も持たずに竜達は封じられないよ」
「さて、それはどうかな」
揚は含み笑いをもらしながら、ゆっくりと杳に近づく。杳は無意識に身を引く。
その様子にまた、揚は笑う。
「どちらにしても僕は、彼らが僕の元へ戻ることを望んでいる。本格的な戦いになれば、彼らの中で生き残れる者はいないからね」
いくら杳でもそんなことは言われなくとも分かっている。分かっているが、敵に言われると百倍腹が立つ。で、揚をにらみつけた。
「それでも彼らは、どんなことがあってもあんたにはつかないよ」
「それはどうかな」
揚は、すっと手を差し伸べ、杳のあごを捕らえる。
「君の存在は大きいと思うよ。もし君が僕の側につけば…」
言い終わらないうちに杳は、揚の手を思いっきりはたき落とす。
「どのツラ下げて言ってんだよっ。オレがあんたに味方するわけないだろっ!」
「何も味方になれとは言っていない」
冷たく笑う揚。その瞳が怪しく光る。それと分からないように術をかけようとしていた。
トクンと、身体の中で脈打つものがあった。
それが、自分の中で息づく勾玉だと気づいた時、病室に飛び込んでくる影があった。
「杳っ!」
ぼんやりしかけていた杳は、その声に我に返る。
見るとドアの前に潤也の姿があった。
見舞いに来てくれたのだろうか、手には花籠を持っていた。
「あなたが、父竜…ですか?」
その気の大きさにそれと知った潤也は、手に持ったものを床に置き、用心深そうにゆっくりと近づいてきた。
その表情は固く、色が失われていた。
潤也が恐れるのを、杳は初めて見たような気がした。
「杳に何の用ですか?」
「凪…か?」
わずかに眉根を寄せて、揚は低く呟くように言う。
「お前も奴らについているのか?」
「…付属品のつもりはないですよ」
潤也の言葉を揚は気にかけた様子もなかった。それ程に、潤也レベルの戦闘力を低く見ているのだと分かった。
それが潤也自身にも伝わる。
「杳を放してもらえませんか? 彼は僕達のいさかいには関係ないんですから」
「関係なくはないだろう? 地人も君も杳くんを守るために必死じゃないかね。そうだ、まるであの女の産んだ子を守っていた時のように」
睨む潤也の表情から何を読み取るのか、揚は口の端を上げて笑みを浮かべる。