第4章
竜の血筋
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「彼を僕が手に入れたら、君達はどうするかな。僕に従うか、それとも取り返そうと躍起になるか」
「オレが仲間になるわけないって言ってんだろっ! あんた、バカ?」
口を挟む杳を、揚は邪魔そうに眉の根を寄せて見やる。
「交渉中なんだから、関係ないなら黙っていてもらえないかね?」
言って、呟く呪文。杳に向けられようとするそれに、潤也の気配が動いた。
途端、風が舞った。
しかし、それは揚の周囲を避けるかのように病室の壁を千々に切り刻んだだけだった。
潤也が手加減した訳ではなく、揚が気だけで潤也の術を弾き飛ばしたのだった。
「やれやれ、困った子だ」
つぶやいて、揚の手のひらに気が込められる。
その気の大きさに気づいて、杳が揚の腕にしがみつく。
「潤也、逃げてっ」
弾みで逸れた光玉は、潤也のすぐ脇の壁にめり込んだ。
「まったく、誰も彼も、困ったものだね」
揚は軽く杳を払いのけると、もう一度潤也目がけて光を放つ。
まずいと思って避ける潤也。しかし、避けた先にもう一発打ち込まれる光玉が、潤也を直撃した。
連続して繰り出された玉を見極めることができなかった。
潤也は打ち砕かれた胸部を押さえて、その場にうずくまるしかできなかった。
地竜王ですら簡単に屈した相手に、自分が太刀打ちできるはずもないのだと思い知りながら。
「潤…っ」
飛び出して行こうとする杳の腕を捕らえる揚。
「あまり、てこずらせないでくれよ」
「あんた、オレなんかに何の用が…っ」
揚の手を振り払おうとするが、適わない。
「興味が湧いてきたんだよ。君の、竜達に与える力についての一考察と言ったところかな」
「ふざけるなっ!」
「威勢がいいな」
揚の手は杳を軽く捕まえているだけなのに、その手から逃れることはできなかった。
杳には、揚の気の直撃を受けてそのまま動かない潤也が心配だった。
「彼なら大丈夫だ。折しもここは病院。あばらの2−3本はいっているかも知れないが、ヤツも竜族だ。まだ死にはしないだろう。元より連中は自分で自分の身体を治癒する」
「あんたって…」
「しばらく僕に付き合ってもらうよ。君のことが知りたくなったんだ」
そう言って揚は杳の瞳を見つめる。ほんの一瞬で術は完成する。杳はそのまま気を失って揚の腕の中へ落ちた。
そして、すっと二人の姿は空気に消えた。
後に残ったのは、動けずにそれを見送ることしかできなかった潤也だけだった。