第4章
竜の血筋
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「ひとつだけ、質問させてくれる?」
かつて巫女であった時代では、竜王と言えば崇め奉る存在であった。しかし、現世では人と何ら変わりない、自分と同い年の少年に、浅葱はかつて抱いていた畏怖の念が消失しているのを感じずにはいられなかった。
「噂は噂として、杳さんのこと、どう思ってるの?」
外界では既に夕まぐれの時刻、結界を張ったここも身体リズムに合わせて景色は薄暗くなる。
中庭に作られた石段に降りて空を見やっていた翔は、浅葱の言葉にゆっくりと振り向いた。
「ストレートに聞くんだね」
浅葱の悪びれた様子のないことに気づき、翔は小さく笑ってから答える。
「好きだよ」
「そのこと、杳さんは…?」
「知ってても知らん顔してる。トラウマもあるし。美奈ちゃんの言っていること、半分、当たってるかな。僕にも負い目があるし」
言葉を綴って、翔は再び空を見上げる。
浅葱はそんな翔の後ろ姿に、聞きたかったことを口にする。
「知ってるんだ?」
「何を?」
「あみやのこと」
「…こだわるね、みんな」
「だって…」
「当たり前か。君達の長姫だったものね。だけど僕はもうあみやには…」
「杳さんがいるから?」
だから良いと言う話ではないだろうと思う。が、翔は肯定する。
「そうだね、分かっているから。人の一生は僕達に比べてずっとずっと短い。どれだけ思っても、いつもいつも置いていかれる。この身が疎ましいよ」
「翔くん…」
「でも、だからこそ宝石みたいに輝いて見える。僕はいつもそれを守りたかった。今度こそ、今度こそ守りきりたい」
まるで自分に言い聞かせる様に、誓うように言う翔。
「君の強さはそれが源?」
だから、怯まないのだろうと浅葱は思った。
この強い思いこそが、彼を本当に強くしているのではないだろうかと。
しかし、翔ははにかんだように返した。
「支えだよ。くじけてしまいそうな僕をいつも支えてくれた…」
いつの時代も側にいてくれたあの瞳。
ずっとずっと、愛していた――。
* * *