第4章
竜の血筋
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寛也と翔が結界内に戻ってきたのは、もうすっかり日が傾いてからだった。
二人が帰ったときには、優達はとっくに帰ってきている様子だった。
その彼らに顔を合わせることもなく、疲れた、腹が減ったと言って、寛也は夕飯前だというのに翔の部屋で駄菓子に手を出していた。
「自分の役目を果たすだけ…ですか? 新堂さん、そんなことを言っていましたか」
翔は止め処なく食べる寛也を相手に、非常にのんびりとした様子で緑茶をすすりながらそうつぶやいた。
表面は平気な様子を見せているが、楊の破壊した町を修復して、怪我人を治癒して回った後のこと、相当に疲労を感じていた。
一緒にいた寛也が術を使えないので、結局のところ自分一人で後始末の役務を負う羽目になったのだった。
「あいつ、もしかして…」
寛也が考えるふうに腕組みするのを横目に、翔はさっさと結論づける。
「いいでしょう。彼には彼なりの考えがあるんですよ。任せましょう」
「いいのかよ?」
「僕は誰の意思をも強制するつもりはありませんから」
やれやれと、大きくため息をつく寛也。
と、そこへ潤也が襖を開けて入ってきた。手には自分用の湯飲みを持って。
「あ、天野くんの具合は?」
松葉がどれだけの時間、父竜から逃げ回っていたのかは分からないが、かなり目立つ外傷があった。翔は癒しの力を持つ者にその治癒を任せていたのだった。
「大丈夫だよ。致命傷ではないし。でも、逆にその方が却って気になるよ」
「そうですね」
二人の会話に首を傾げる寛也に、潤也は説明する。
揚は余程手加減をしたと思えるのだ。さもなければ、紗和でさえ怯んだと言うその力の前で、木竜などひとたまりもない筈なのであると。
翔にも潤也にも、どうも彼の考えが読めなかった。
「どっちにしてもよ、あの戦いっぷりだと結構、こっちにも勝機はあるんじゃねぇのか?」
寛也が言う。先程の、揚との戦いの一端を目にして思ったことだった。寛也の目には、どう見ても翔の方が優位に見えた。一瞬、垣間見ただけではあるが。
その翔は寛也の言葉に、唇をかみ締める。
「何だよ? 違うのか?」
「…あんなものじゃないですよ、父竜の力は。僕は心底彼が怖い」
低い翔の声に、寛也は舌打ちする。