第4章
竜の血筋
-1-

16/17


「別にね。君たちも決して仲が良いとは言えないと思ってね」
「貴方に似て、みんな我が強いですからね」

 そうだろうと、楊はどこか楽しそうに呟く。

「それで、君も僕に敵対すると言うわけかい?」
「あなたの目的が人界の滅亡だと、本気で言うのでしたら」
「それ以外に何がある?」

 口調が変わった。

 意外にもその言葉は二年前に自分の言ったものだった。

 何もないではないか。

 あの子のいない世界。

 何もかも失ってしまった悲しみ。

 この人もそうなのだろうかと、翔は思った。

 母に裏切られ、その母を殺し、癒されない傷のまま幾千年――。

「死して当然の輩だよ」

 彼は無表情のまま、言う。

「初めは、信じていたよ、すべてを。だが、あの人間は…」
「心まで…本当に心まで裏切ってしまったのだと思っているんですか?」
「お前に何が分かる」
「僕は信じていますから」
「裏切られてもか?」
「ええ。…いいえ、たとえ裏切られても僕は、それでも自分の気持ちに正直でありたい。大切なのは、思われるよりも思い続ける気持ちだから。大切な人が幸せでいられたら、僕はそれでいいんです」

 自分でも臭い台詞だと思った。が、言葉にすればこれが最も近い思いには違いなかった。

「…話にならないね」
「人を…あなたは本当に人を好きになったことはないんですよ、きっと」
「ならばお前達は何だと言うんだ? 愛した者に裏切られ、お前達も牙を剥き、何が残ったと思う? 絶望だけだ」

 それが彼の心の大半だと翔は知る。

 しかし、彼が悩んだと同じように苦しんだ子がいた。自分が最も慈しんだ子――綺羅。

「あの子はいつも泣いていましたよ。自分さえ生まれてこなければと」
「忌まわしい人の子だ」
「あなたにとってはね」
「お前…」


<< 目次 >>