第4章
竜の血筋
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「おわっ! お前、どっから?」
いきなり眼前に出現した翔の姿に、寛也でなくとも驚いた。
それは、瞬間移動だった。本当に、特殊画像のようにしか思えない現象に、慣れない者の心臓は激しく脈打つ。
「雪乃さんは?」
驚く寛也の腕をつかんで、慌てた様子で聞く。
「それが、さっきから見えねぇんだよ」
言っている間に、もうひとつ出現する影。紗和だった。
再び驚く寛也に紗和は告げる。
「もうひとつ言い忘れてたよ。華竜は敵前逃亡をはかったみたいだよ」
「何?」
「もう慌てても遅いと思うよ。残るは歌竜のみ。どっちが先に見つけ出すかだよね」
事の顛末を知らない寛也が聞き返そうとするのを無視して、翔は優に向く。
「杉浦さん、木竜の居場所を知りませんか?」
いきなり話を振られて、優は慌てて首を振る。
「華竜を捜すのが早いか、それとも歌竜を見つけるのが早いかといったところだね」
紗和はのんびりとそう言うと、背を向ける。
去ろうとする紗和を呼び止めるのは翔。
「味方につかなければ、彼らはもしかして…」
「父竜は消滅させるつもりだよ」
「消滅ー?」
いちいち素直に驚く寛也。
「この魂ごと消し去ると言っていた」
「木竜は――」
木竜は人に優しい竜だった。争いを好まない、穏やかな性格を持つ。それ故に先の戦いでは参戦しなかったのだ。その彼が父竜の意に従うことは考えられなかった。
「多分、ね」
従わない者を消し去るというのなら、間違いなく木竜は殺されると考えられた。
迂闊だった。戦力よりも保護すべきものを先に考えるべきだったのだと、後悔の念が翔の内に押し寄せる。
翔は全身の神経を研ぎ澄ます。精神を集中させて、父竜の気を探る。
その翔をしばし黙って見やる紗和。
「木竜は…」
諦めた方が良いと、紗和が言おうとする前に、先に翔は東の方向へ目を向ける。
途端、消え失せた。
「…何のために僕が…」
止める間もない翔に、紗和はため息をついた。自分がここまで出向いて来た甲斐が、まるでないではないかと。