第4章
竜の血筋
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「いえ、新堂さん、力を抜きましたね」

 紗和の攻撃が止まるとともに、翔も防御を解く。

「そんなことはない。もともと僕は攻撃が苦手でね」
「守りの要がいないと心もとないですよ」

 翔としては自分の意志を押し付ける気持ちはまるでないが、それでも本来、得手としていない者に守りを任せることの不自由さを感じずにはいられない。

「でも、僕達が手を合わせても、まともに戦ったのでは勝てることは決してないよ」
「分かっています。すべては過去の繰り返し。僕達は辿って来た道を、今、逆行しているんです、新堂さん」

 翔は初めて動きを見せる。

 ゆっくりと、紗和に近づく。

「あの時、僕達は逃げた。綺羅ひとりにすべてを預けて、絶大だった父竜の力の前に何もできずに」
「それは…」
「本当は最後まで戦わなければならなかったのに、僕達は残った綺羅に、ひどくむごいことをさせたんです。父に忌み嫌われて生まれてきたあの子。彼女を守る為に、母がたったひとつだけ残した護符で…綺羅は父を封じた。その為に綺羅の生はあんなにも短かったんだ。綺羅は僕達を守る為に、自らの命を引き替えにしたんです…」
「翔くん…」
「だからもう、逃げちゃいけないんですよ、僕達は。守られるよりも、守りたいと思う。大切なものをもう二度と失いたくない。自信なんかじゃなくて、これはほんの少しの悪あがき。…無謀なだけなのかもしれませんけど」

 それでも、信じるものがあれば戦える。

「…僕にそれだけの力があれば…」

 握りこぶしをして、つぶやくのは紗和。

「完敗したんだ。半覚醒の父竜に。絶対に勝てないと身体で知らされた」
「杳兄さんがね、気にしていました」

 杳の名に、紗和が顔を上げる。一瞬、その顔に切ないような色が浮かぶ。それが何であるのか、翔には十分過ぎる程に分かっていた。

「自分を助けてくれる為に敵に回ったんじゃないかって」
「まさか」
「じゃあ、思い上がるなって言っておきます」
「頼むよ」
「メンツ、保てませんね」
「そうでもないよ」

 肩をすぼめる紗和。

 紗和の視線に合わせて辺りを見回すと、随分と瓦礫の山があった。手加減したつもりでも、被害は免れなかったようである。

 今更気づかされている翔に、紗和は笑みがこぼれる。

「仲間を集めて回ってるんだろ。だったらいい情報を教えてあげるよ。闇竜はこちらの配下に下った。木竜は現在交渉中だよ。もうそろそろ決着してもいい頃だろうか」
「何…だって?」

 見返した紗和は元の穏やかな笑み。

「悪かったね。僕の本当の役目は、ここで君達の足止めをすることだったんだよ」

 はめられたことにようやく気づく。

 翔は紗和に背を向け、一瞬で姿を消した。

   * * *



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